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一 MajiでKoiする5分前
もう、こんなどストライク、ズルイってば。
この田舎のローカル線は、夏の野蛮な陽光をしたたかに取り込んで、終点に向けて走っていた。
学生にとっては、明日から夏休みだ。この夏、電車であの子を見かけるのは、今日が最後になるだろう。
……もしかしたら、最期、になるかもしれないけれど。
そんな風に考えながら、僕は、ボックス席の向かいに座って文庫本に夢中なあの子のことを、ぽんやりと眺めていた。
例えるなら、デビューしたてのヒロスエをおとなしくした感じ、か。
烏の濡羽色をしたきれいな黒髪のポニーテール。
陶器のような真白な肌に、対照的な桜色の頬が、まだ高校生らしいあどけなさを醸し出している。
そして、文庫本に向けられた、伏し目がちな目。その黒い真円がたまに揺れ刹那的に僕を捉えると、まるで吸い込まれていってしまいそうな感覚に陥って――。
好きだ。とにかく、好きだ。
歳の差も、細かい理屈も、全部とっぱらって。好きだ。
このローカル線が終点につくまで、あと五分。
――あと五分で、この恋心に、決着をつけなければ。
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