変身ヒロインのお父さんがいいの!

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変身ヒロインのお父さんがいいの!

「娘はやらぬ!」  正義の変身ヒロイン・ラブリィメグルに恋した悪の四天王ダークこと僕。今、最大のピンチです。 「寝返った(退職した)上、ワシの可愛いカワイイかわいすぎるプリティーなメグルと、結婚するだとぉおおおおおおおお!? けしからん! 断じてけしからぁぁぁぁんッ!!」  紆余曲折あって想いが通じ合った僕らが、意を決して結婚の意思を伝えにきてみれば、そこには悪の組織時代から見慣れた(なにせ新卒で入った組織だよ、新卒)、組織のボスがいた。  僕は一応四天王ポジションだったから、マスクの下も知っているのだ。  クルクルと先が丸まったアホっぽ……いや、特徴的な髭は、見間違えるわけがない。 「メ、メグルのお父さんが、ボッ……ボスゥ!? どうして貴方がここに!」 「えっ、それ、どういうことなのダーちゃん!」  僕の隣に座っていたメグルが立ちあがる。彼女も知らなかったのか! いやそりゃあそうだろう。そうでなければ、あんな正義感に燃えた真っ直ぐな瞳で俺と戦わなかったはずだ。 『あなたにも愛があるはずなの……私を信じて!』  激闘で傷ついた僕を信じて抱きしめてくれたメグルのあたたかさ……って、そんなこと考えている場合じゃない! 「お前にお義父さんなどと呼ばれる筋合いはないッ!」 「まだ呼んでませんっていうか、ど、ど、どういうことー!?」  向かいに座るメグルのお父さんは、僕の元・上司であり――悪の組織のボス、そのひとだったのです。 ::: 「お父さんが悪の組織のボスって……そんな、今まで私は、お父さんの命令で、お父さんと戦ってたってワケ?! 嘘っ、そんな……っ」 「ばれてしまっては仕方がない……ワシはな……ワシはな……」  ゴゴゴ、と黒いオーラがボスから発せられる。僕はショックを受けているメグルをかばうように前に出た。 「……ワシは『可愛い変身ヒロインの優しく頼れるお父さん』で居続けたかったんじゃぁぁーーーーッ!!!」  一軒家に響く大絶叫に続いて、 「「はぁーーーーーーっ?!」」  と、僕とメグル、二人分の声が響いた。 「世界征服とかどーでもええんじゃあっ! ワシはフリフリひらひらの衣装を着た可愛いカワイイメグルがずっと見たかったんじゃああっなにか困ったことがあれば『お父さん、どうしよう!』ってメグルが頼ってくれるんじゃああっ! 最近は資金難もあったし離職率も高かったから辛かったけどっっくそっおまえも辞めたんだったな貴様!」 「だからあんな組織作って悪いことしてたんですか!」  ちなみに僕のいた組織の「悪いこと」とは、ゴミをポイ捨てしたり、謎のうねうねした生物をご町内にバラまいてパニックにさせたり、スーパーの惣菜売り場にいる親子連れに「ポテトサラダくらい自分で作らないんですか」と言い逃げする感じの「悪いこと」だった。一見くだらなさそうに見えて正直めちゃくちゃ大迷惑だしきらわれていた。おまけにポテトサラダは死ぬほどめんどくさい料理なんだぞ。  それはさておき。  メグルが二十五才になっても変身ヒロインを続けてた原因、てめえかよ!!  当のメグルを見ると、顔を俯かせて体を小刻みに震わせている。  そりゃあショックだよ。事務員のOLと掛け持ちでやらされてたことが、こんな超個人的かつ気持ち悪い欲望が理由だったんだもの。  彼女の肩を抱く。すると、メグルが顔を上げ、僕を見た。 「私、舞い上がってたんだ。いいことができるって、ダーちゃんを助けることができるって……。お父さんも馬鹿だけど、私も馬鹿だった」 「メグル……」  ばしっ、と自分の頬を叩いたメグルの目には涙が浮かんでいる。だが、その表情は、僕の愛した「正義のヒロイン・ラブリィメグル」の美しく強い決意にあふれていた。 「ダーちゃんお願い、子離れできないアホ親を一緒にぶん殴って!」  ぎゅっと手を握られて可愛いお嫁さん(確定)にそんなこと言われたら、やらない旦那(確定)はいない!  二人で立ちあがると、光が僕らの体を包む。  僕は正義の騎士服、メグルはパワーアップしたロングスカートのバトルスーツに変身していた。 「燃やせ怒り! 放て愛!」 「すべては、平和のために!」  心の底から湧いてくる想いを一つに重ねるために、僕とメグルは力強く手を握り合う。 「貴様ら、なにをするつもりだ!」   「必殺、ゲキアツヴァイラブアターーーック!!」 「ギャアアアアアーッ!」  渾身の合体技は、ボスに直撃した!  無残にも倒れたボスが、うめき声をあげて僕らを見上げた。すっかり覇気のなくなったお義父さん(ボス)は、「メグル……ダーク……」と名を呼んだ。 「悔しいが、娘を頼む……組織は解散だ……」  認めてくれたのか……! ほんの数十分しか経ってないのに悪の組織を倒してしまった!  変身解除したメグルと手を取り合い、はにかみ合う。 「ダーちゃん、これで平和だよ」 「メグル……!」  ひしと抱き合った僕らの横には、いつの間にかお義父さんが立っていた。彼はしたり顔で「うんうん」と頷いている。なんつう切り替えの早いオヤジだ。 「うむうむ。では孫娘を生んで彼女を変身、ヒロインに……孫娘を頼む……」 「「そこで孫娘を頼むヤツがおるかーーーーッ!!」」  どうやらこの結婚、平和にはいかないみたいだ。  僕はそれでも未来を信じて、かわいい嫁ちゃんと共にクソ義父に蹴りを入れた。
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