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(2)
私たちは足を滑らせないように注意しながら校内の階段を慎重に降りていった。窓から差し込む月灯りにだいぶ助けられていた場面はあったものの、足元は見えづらくて気を抜くとずるりと滑り落ちていってしまいそうだった。
「あれ?」
私はとある違和感を覚えて足を止めた。
「どうしたの?」
「いや……」
七海に聞かれて私は咄嗟に首を振ったが、とある踊り場まで降りたったとき私の背筋にぞくりと寒気が走った。いつだったか、学校の階段から転げ落ちた記憶がよぎったのだ。全身がじんわりと痛くなっていく。だが、階段から落ちてしまったときの詳しい状況は全くと言っていいほど思い出せなかった。
「友梨ー!」
そのとき下の方から彩花の声が聞こえて来て、私たちは急いで残りの階段を下っていった。
「呼び出したよ!」
彩花は興奮気味に私の肩を叩いてきた。その様子を見ている七海も嬉しそうだったが、ただ私だけは状況を飲み込めずに固まってしまった。
「だ、誰を……?」
すると、彩花は満面の笑みを浮かべながら私に耳打ちをした。
「友梨の愛しの翔君!」
それを聞いた瞬間、私は目を丸くした。
「えっ、彩花って樋口君と付き合ってるんじゃないの!?」
つい思ったことがそのまま口が溢れ出た。やってしまったと思われたが、彩花は一瞬ポカンと静止した後いきなりケラケラと笑い始めた。
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