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彼がいった言葉の意味がつかめず、聞き返す。ヤタさんは僕の目尻を親指でぐいと擦ると、「取れたぞ睫毛」と両手を払った。一瞬どこか寂しそうな横顔が映った、ような気がした。
「コーヒー淹れろタマ、先生に菓子もろうた」そういって僕を見たヤタさんは、いつものちょっと険のある目をした彼だった。
「あ、うん。コーヒーでいいの? カフェオレじゃなくて?」
「……やっぱしカフェオレ」
少し唇を尖らせて彼がいう。「うん、わかった」僕は頷く。少し意地悪だったかな。
そうして、そっと深く息を吸った。
「ね、ヤタさん。あのさ、今は話せなくてもいいよ。でも、いつか……いろいろ、話してくれると嬉しい」
ソファに背を預けたヤタさんは、僕を見上げて目を丸くする。
今、僕がいえるのはきっとこれだ。
それが正しいのか、間違っているのか、きっと誰にもわからないけれど。でも、伝えるということは、きっと何かに繋がるはずだ。
あの二人の少女らの交わした約束が、箒星の夜の奇跡を起こしたように。
コーヒーと砂糖ミルクたっぷりのカフェオレを淹れるために、僕は歩き出した。
【To be continued】
修理屋ヤタさん第一話終了です。
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