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「タマァッ! 頭ァ下げェッ!」
途端飛んできた幼なじみのしゃがれ声に、僕は反射的に頭を下げる。
パブロフ。
シュンと鋭い音を立てて、何かが頭の上を通過した。それも、多分ものすごい勢いで。
ターンッと背後で何かが突き刺さるような音がした。ブワッと腹の底が冷え、背筋に汗が湧く。
何だ今のは。
焦って振り返る。僕の後方五メートル程にある整備場の壁に、何か銀の細長いものが突き刺さっている。余程の勢いだったのか、それは未だに小さく揺れていた。
「何あれ」
思わず呟いた僕に、「カンザシ」と扉の隙間から顔を出した幼なじみが答える。その手には小さな精密ニッパーとピンセット。
今回の修理依頼はあの空飛ぶ簪だったらしい。
幼なじみ――この整備工場の唯一の従業員である矢田(僕はヤタさんと呼んでいる)は、バンダナ代わりに頭に巻いていたタオルをむしり取った。
いつ買ったとも知れない色あせた黒のTシャツに、派手なオレンジ色のつなぎの袖を腰で結んで留めている。これがヤタさんの仕事着兼普段着だ。
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