31人が本棚に入れています
本棚に追加
バターンッと無遠慮に事務所の扉が開き、一人の男が飛び込んでくる。向かいのソファの先生が、その掌で目許を覆っている。
飛び込んできた男は、先生を見つけると一目散に飛びかかっていった。まるで大型犬かなにかのように。
豪奢な金の髪を背の辺りまで伸ばした彼は、先生の肩に腕を回して「なぁ、さっきすっごい曲思いついちゃったんだ! 天才って? 知ってるよそんなの! 聞いてくれよ! 早く帰ろうよ!」とガクガク揺さぶっている。
年の頃は二十代始め程だろうか。陶磁のような白い肌に、通った鼻筋。金の長い睫毛が縁取る透き通る青の瞳が、彼の内面を現すように輝いている。
「エル、エルンスト、待ちなさい。まず挨拶だろう……」
「えー? やだよ! 君らが最近エヴィを独占してる修理屋だろ? いい加減返してくれよ。それでなくてもいっつも『せんせーせんせー』ってガキンチョたちがわらわらきててやなんだ」
エルンストと呼ばれた彼は、ヤタさんと僕を一瞥すると、子どものようにイーと歯を剥き出した。僕は呆気にとられ、並びのよい白い歯を見つめてしまう。
そして彼はすぐにまた先生の腕を引っ張った。
最初のコメントを投稿しよう!