0. Prologue,

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0. Prologue,

 都内の主要駅から三駅程離れ、最寄りの駅からは徒歩十分程。  元は商店街だっただろう寂れかけのシャッター通りを抜けた先にその工場(こうば)はある。――『小烏(こがらす)整備店』。  白地に黒く角ばった文字の素っ気のない看板の下には、打ちっぱなしのベニヤ板でこんな継ぎ足しがされている。『よろず修理承り〼』と。  九月を半ば過ぎて暦の上では秋になったといっても、記録的酷暑だった八月を思えば、ようやっといつもの夏が訪れたといった心地がする。  ワイシャツの襟元に指を差し込んで緩めながら、僕は事務所に併設された作業場を覗き込んだ。大きめのガレージといった風のそこは、整備店といいながら、車が入っているところはとんと見たことがない。  きれいに整頓された整備道具が、今日も鳴く閑古鳥に聞き入っている。  作業場の中に足を踏み入れ、事務所につながるアルミサッシの扉をノックする。扉には安全第一の剥がれかけた標語と、セールスお断りのステッカー。僕は営業マンではあるが、ここに来るときは大体ただの閑人(サボり魔)だ。  コンコンとまた扉を叩く。返事はない。  この工場に従業員は一人だけだ。  ときどき彼は中で修理に集中しすぎて返事をしないこともあったので、僕は遠慮なくドアノブをひねる。  カチャッ、と軽い音を立てて、アルミサッシの扉は簡単に開いた。
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