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「今日のパエリア、我ながらよう出来てるやん」
ご機嫌で自分を褒めるユイちゃん。
「うん、ほんとだね」
あれ?タカくん、そこでおしまい?それじゃまたユイちゃんに怒られちゃうよ?
そう思ってたら、やっぱりジロリと睨まれて「あっ」と焦った顔をするタカくん。
「そ、それに、この……牛肉のシチューも、すごく美味しいよ!時間かかったでしょ?もしかして昼から作ってくれた?」
「ああ、それ?」
ユイちゃんの顔が明るくなった。
よし。機嫌が直りつつあるよ?頑張れタカくん!
「なんと三十分しか煮込んでないねん!」
「え、すごいね。コクもあるしお肉も柔らかいよ?」
「秘密知りたい?」
「うんうん」
ドヤ顔のユイちゃん。頷くタカくん。
ユイちゃんがおもむろに立ち上がるとキッチンへ行った。そして戻ってくると、後ろにやった手をおもむろに出した。
「じゃじゃーん!これや!」
ユイちゃんが出したのは黒い空き缶。
「これで煮込んだんよ。その名も“アイルランド風黒ビール煮込み”や!」
得意げな顔のユイちゃんの前で、タカくんが目を見開いている。
「そ、それ……」
「なに?」
「それ、全部使っちゃったの?………」
「なに?あかんかったん?」
「楽しみに取っておいた最後の一本だったのに………」
「そんならはよ飲みや?ずっと冷蔵庫に入りっぱなしやったから、いらんのやと思っとったわ」
ガックリと項垂れるタカくんに、ユイちゃんは大きな瞳を丸くして小首を傾げた。
「まあ、こうして美味しくなったんやからえぇんとちゃう?お腹に入れば一緒やろ?」
ユイちゃんはいつもの可愛らしい顔で、にっこりと笑った。
つづく。・・・・・・はず
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