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「なに、ため息なんかついてるのー?」
翔多がひょこっと浩貴の前に顔を見せた。
ちょうど翔多のあられもない姿を夢想していた浩貴は必要以上に驚いてしまった。
「……っ! びっくりしたー! 翔多、おまえ職員室行ってたんじゃ……」
「今、帰ってきたトコ。ほら、またすーがくのフジワラがこーんなに宿題プリントくれたわん」
例によって例のごとく、数学の成績がいつもどん底のまた底を這っている翔多は呼び出されて、翔多専用の宿題プリントを出された様だ。
「もうちょっと、数学の小テスト、マシな点数取れる様に頑張れば?」
頭で考えてる事が透けて見えるわけでもないのに、なんとなく気恥ずかしくて、浩貴は少しぶっきらぼうな口調になってしまった。
「ムリムリー。オレの頭はすーがくには向いてないから。この宿題プリントも秘密裡に始末してしまおうにゃん」
「よけー、プリント追加されるぞ」
どっちみち、浩貴も宿題プリントを手伝わされるのだ。
「まーまー。……それより、浩貴、来週の火曜日の夜って空いてる?」
「え? うん。空いてるけど」
「じゃ、さ、オレの下宿先に泊まりに来ない? 伯父さんが有給取れたから、伯母さんと一緒に熱海に旅行するんだって。んで、火曜日の夜はオレ一人になるから、伯母さんたちも浩貴に泊まりに来て貰いなさいって」
そう言った翔多の大きな瞳が妖しい輝きを見せた様な気がした。
ドキ、と浩貴の胸の鼓動が跳ね上がる。
「オレ、泊まりに行ってもいいの?」
これってちょっと間抜けな質問かも……。
そんなふうに思いながらも、浩貴は確かめずにはいられなかった。
「うん。浩貴に来て欲しい……」
翔多の瞳が、今度ははっきりと、妖しい光を放った。
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