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ドキドキしながら迎えた火曜日の放課後。
浩貴は翔多と一緒にそのまま彼の下宿先へと帰ることにした。
どっちにしろ、翌日も学校だし、パジャマなどの着替えは翔多が貸してくれる。父親にも今朝そう言っておいた。
帰り道にスーパーに寄り、はしゃぎながら買い物をする。
せっかくだから夕食は二人でなにかを作ろうという事になったのだ。
浩貴は男所帯のおかげで少しは料理もできるし、翔多もサラダくらいなら作れるかも、と言うので。
それでも失敗する事がまず無い様に市販のルウを使ったビーフシチューという献立に決めた。それとシーザーサラダ。これもドレッシングは市販の物を使って、あとは近所のパン屋で焼きたてのパンを買い、翔多の希望でイチゴのショートケーキをデザートに。
「うわ。おいしー! オレたちって結構料理の才能あるのかもー」
翔多がシチューを一口食べて、感動! と瞳を輝かせた。
「そりゃ、市販のルウを使ってんだから。失敗する方が難しいと思うけど」
浩貴もシチューを口にして、笑う。
シーザーサラダの方も美味しくできている。
……多分、翔多と二人で作って、一緒に食べるから、特別美味しいんだろうな。
目の前の愛くるしい恋人を愛でながら、そんなふうに幸せを噛みしめる。
「でも、やっぱ、浩貴って時々料理してる所為か手際がいいよねー」
「そうかな? 別に普通だと思うけど。翔多ができなさすぎ。包丁が使えないのな、おまえ」
「うん。オレ、包丁とか先のとがったのってダメなんだよー」
「先端恐怖症ってヤツ?」
「そう、そう」
「じゃ、針なんかも苦手?」
「ダメダメダメダメ」
翔多がブンブン首を横に振る。
「オレなんか浩之が学校に持ってくぞーきんも縫ったりするぜ?」
「うそ。感動。浩貴ってすごい。いいお嫁さんになれるね~」
二人して取り留めもない話をして食事をしながらも、浩貴は刻々と迫る夜の時間に思いが飛んでしまうのを押さえる事ができないでいた。
お風呂を先に使わせて貰い、翔多に借りたTシャツとスエットを着て居間に戻って来ると、翔多は冷たいミネラルウオーターのペットボトルを渡してくれた。
「裏庭のデッキチェアーのとこが気持ちいいから、そこで涼んでなよ。オレもお風呂入って来るから」
瞬間、浩貴はシャワーを浴びる翔多の姿を想像してちょっとドキドキしてしまう。胸の鼓動をはち切れそうなほど高鳴らせながら、彼の言う通り裏庭に行きデッキチェアーに座った。
翔多の下宿先は年季の入った純和風の二階建てで、部屋も殆どが和室だが、この裏庭だけは赴きが異なり、何処か外国のおとぎ話にでも出て来そうなメルヘンチックなモノである。
背の高い木がちょうど隣の家を隠してくれてるし、手入れが行き届いた綺麗な花が色取り取りに咲いている。
実はガーデニングの趣味があるのは伯母さんの方ではなく、伯父さんの方らしいのだが。
広さは部屋で言うと八畳ほどあり、その真ん中にお洒落なテーブルと、椅子がニ脚置いてある。
浩貴はその一つに座り、
「あー、なんかすっげーキンチョーする……」
そう呟くとゆっくりと深呼吸をした。
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