がんばる私 と 見守るあなた

4/5
前へ
/5ページ
次へ
 その夜、20時近くになり、玄関のチャイムが鳴った。私は、フライパンの火を消して、玄関の鍵を開ける。 「りっくん!」 「悠亜(ゆあ)、会いたかった」 ドアを開けるなり、玄関でりっくんが抱きしめてくれる。りっくんの肩口に頬を預け、私もギュッとりっくんを抱きしめ返す。  しばらくして、腕を緩めたりっくんが言った。 「悠亜、何で家の中でもマスクしてるんだ?」 「い、今、お料理してたから」 ニキビを隠してるとは言えなくて、そうごまかした。 だけど…… 「いいよ、そんなの。これじゃ、キスもできない」 そう言うと、りっくんは、サッと私のマスクを取ってしまった。 「あっ……」 私は慌ててあごを隠そうとするけれど、そんな不審な動きにりっくんが気付かないはずもなく…… 「悠亜、どうした?」 私の手をそっと外したりっくんは、そこにある大きなニキビに目を止めた。 「ああ、これを気にしてたのか」 りっくんは一瞬、眉を潜めた。 やっぱり、こんな大きなニキビ、汚い感じがして嫌だよね。 私が、しょんぼりとうなだれると、りっくんが言った。 「こうなると、マスクが擦れても痛いんじゃないか?」 りっくんが心配そうに頭を撫でてくれる。 「言ってくれたら、ちゃんと薬持ってきてやったのに」 りっくんの職業は、薬剤師さん。地元の県立病院前の調剤薬局で働いている。 「よし! 明日、一緒に薬局に行こう。俺がいろいろ選んでやる」 そう言うと、りっくんは私のあご下に指を掛け、くいっと持ち上げると、ちゅっと触れるだけのキスを落とした。  りっくんが、たかがニキビで変わるような人じゃないって分かってたけど、今、その優しさを実感して心の底から幸せな気分になる。  その夜、私たちは、2人仲良く食事をして、2人仲良く2ヶ月分の思いの深さを確かめ合った。  翌日、りっくんは、薬からスキンケア用品まで選んでくれて、帰宅後、洗顔の仕方まで教えてくれた。殺菌効果のある洗顔料で1日何回も洗っちゃダメなことも、初めて知った。  日曜の夜にりっくんは帰って行ったけれど、私はりっくんに教わった通り、薬を塗り、美肌のための薬を飲み、正しく洗顔して丁寧にスキンケアをするようになった。  保育士という仕事柄、子供との外遊びは欠かせない。いつも忙しさにかまけて、日焼け止めすら適当に塗ったり、塗らなかったりだったけれど、毎朝きっちり、りっくんが選んでくれた日焼け止めを塗るようにした。  もちろん、その分、クレンジングも丁寧にする。  マスクニキビには、不織布の使い捨てマスクよりガーゼがいいと言われて、頑張ってマスクも手作りした。  幸い、ニキビは綺麗に治り、後も残らなかった。それもこれも、全部りっくんのおかげかな。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

145人が本棚に入れています
本棚に追加