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そうして、1ヶ月が経った頃、うちに来たりっくんが、不意に私の頬に触れた。
「もしかして、ニキビが治った後も、ケア続けてる?」
りっくんは、そのまま親指で頬を優しく撫でる。
「うん。また、ニキビができたら嫌だし」
りっくんにじっと見つめられると、どうしていいか分からなくて、私は、さりげなく目を逸らして答えた。
「だと思った。悠亜最近、綺麗になったから」
「えっ?」
驚いた私は、思わず、逸らしたはずの視線をりっくんに戻す。
「悠亜、綺麗だよ。肌がすごく綺麗だ。触ってみてもすべすべだし」
「ほんと?」
ほんとなら、すごく嬉しい。
「嘘言ってどうする。悠亜のそういう素直で努力家なところ、いいと思う。きっと、いいお嫁さんになるよ」
それって、どういう意味?
りっくんの言葉に、私の心は、わずかな期待と、自制に揺れ動く。りっくんが言いたいことが、はっきりとは分からなくて、私はりっくんを見つめて次の言葉を待った。
「悠亜、結婚しないか?」
うそ? ほんとに?
「ずっと考えてたんだ。こんな状況で、緊急事態とか言われたら、どんなに好きでも会いに来ることもできなくて。会えないまま、もし、どちらかが病気になったりしたら、どうしようって」
「うん」
それは、私も思ってた。会えないまま、ずっとりっくんの心配してた。病院の前の薬局に勤めるりっくんは、検査しないまま風邪薬を処方される患者さんと毎日のように接する。気をつけてるとはいえ、感染リスクは、保育士の私より、ずっと高いはず。
「でも、結婚すれば、誰の目を気にすることなく、ずっと一緒にいられる。だから、結婚しよ?」
「……うん」
嬉しくて、嬉しくて、以前より滑らかになった肌を涙が玉になってするりと滑り落ちる。
「悠亜、必ず、幸せにする」
言葉が喉に詰まって出てこない。私は、ただ、こくこくとうなずくことしかできなかった。
こんな状況じゃ、結婚式は無理かもしれない。仕事だって、年度の途中で辞めたら、迷惑がかかるのは、分かってる。それでも、私はりっくんと結婚したい。ずっと一緒にいたい。
ああ、りっくんの言うことを素直に聞いて、努力して良かった。私、りっくんと一緒なら、いくらでも頑張れるよ。
だから、りっくん、一緒に幸せになろうね!
─── Fin. ───
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