蜂蜜レモンとチョコケーキ

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中学生1年の終わり。 あまりにも成績が良くない俺に不思議にしていた両親には、"テストっていう形式に慣れなくてうまく点数が取れない"って言い訳というか説得させた。 2年の終わりの三者面談で、先生から成績のことを言われて隣で母がびっくりしてたの覚えてる。 帰ってから、ちゃんとテスト見せなさいって言われて。処分してなかった最後の学期末テスト見せた。 30点以下がほとんど。 両親はなぜか泣いていた。 でも俺をやたら責める事は無かった。気付かなくてごめんって言われた。 俺はそこで一緒に泣いた。 両親に良い子供でいたいプライドが崩れた瞬間だった。 シリアスなのはここまで。 翌年は受験を迎えるわけだけど、俺はもう諦めていた。偏差値が本当に底辺なところは、なんかヤンキーとかいる高校しかなく、でも俺は底辺レベルしか受かる可能性がなかったのだ。 行きたくない。 親バカの両親も、行かせたくない。 そう、家族会議をした結果、 俺は隣県にある私立の男子校へ行くことにした。学生寮生活だ。親は寂しいって泣いてたけど。 この高校には、俺の知ってる人は誰もいない。 つまり、高校デビューができるのだ! 俺は今まで持ってたつまらないプライドはもう過去に置いてきて、最初からバカで行くことにした。 ネガティブなデビューである。 コミュ症は仕方ない、デビューで変えれるものじゃない。だから喋りかけにくい雰囲気を作ることにした。 ロン毛だ。 前髪は常に目が隠れるくらい。 髪の毛は伸ばしっぱなし。肩より下くらいまである。 常にマスク。 このスタイルは成功し、 怖い先輩にも絡まれなく同級生からも特に仲良くする雰囲気にならず、俺はひっそり生活できていた。 染めたりはしてないから指導対象にもなってない。 ただ、俺は毎日両親に電話するわけでもなく、学校で頻繁に話すことがなくなり、どんどんコミュ症が悪化するのに気づけていなかった。 部活にも入らず、ただただ生活していた高校1年の終わり頃、俺は漢字検定の勉強をするために図書館へ通っていた。 バカな俺だけど、取り柄は漢字しかないって気づき、漢字検定に取り組むことだけはしていた。難しい漢字も読めるけど、四文字熟語の意味とか知らなかったから勉強する必要があって今やっと2級。結構頑張ってるとおもわない? そんな時に、 「ねえ。目、悪くなるよ。前髪邪魔じゃないの?」 気づけば目の前に座っていた生徒。 彼は同じクラスの人だった。 ほとんど話したことないけど俺は彼の名前を知っていた。 「せ、犀椰(せいや)くん。 こんばん、わ。」 彼は樋口犀椰くん。 サッカー部でキャーキャー言われてる1人。 …女子はいないんだけど、ね。 カッコいい人に素敵な名前だなって、思って。 その下の名前が気に入りすぎて、思わずそう心の中で呼んでた。本人前に出ちゃったけど。 「あ、名前知っててくれたんだ。習字大変だった思いしかしてない俺の名前。」 「習字、大変そう。画数多いね。素敵な名前。」 「そう?ま、ありがと。  何してんの?テストおわったのに勉強?」 「う、うん。春休みになったらテスト受けるから。」 漢検と書かれた参考書の表紙を見せる。 「へぇ。漢検2級ってすげーじゃん。あたまいーんだな。意外だわ。テスト前に教えて貰えばよかった。」 「ち、ちがう!俺はバカで、漢字だけ、漢字バカなだけ!」 「ん?どゆこと?漢字だけバカだから勉強してんの?でも2級ってだいぶ進んでると思うけどなー。」 「あ、えと、そうじゃなくって。逆で。  俺は漢字以外バカなの。だから教えれなかった。」 「ああ漢字バカってそういう意味ね。はは、何お前、なんか面白い奴だったんだな。いつも1人でいて、でも声かけにくかったんだよなーなんとなく。 もっと早く話してれば良かったわ、もうクラスおわっちまうな。」 …こういう、ちょっと嬉しいこと言われた時。なんて言えばいいのか分からなくて….顔だけ赤くなり黙るしかできない。 下向いてたら髪の毛わしゃわしゃされた。 上向いたら目があった。 「なあ、話戻るけど。前髪鬱陶しくない?目も悪くなるよ。伸ばしてるわけじゃないんだろ?」 目のところまでは意識して伸ばしてる。 でも後ろの髪みたいに伸ばしてるわけじゃない。 ほら、わかんない。読めない会話。 なんて言えばいいんだろう。 「言いたいこと全部、普通に言えばいいよ。ちゃんと聞くから。」 「犀椰くん…やさしいね。」 「何言ってんの、ふつーだよ、ふつー。」 それから小一時間、俺たちは色々話した。 俺は久しぶりに話して、少し笑って、顔の筋肉が痛くなった。それを伝えたらびっくりしてた。 「お前にはリハビリが必要だな。これっぽっちで筋肉痛とか笑えねー。日曜日は俺部活ないから、俺とおしゃべり、な?」 めちゃくちゃビックリした。 けどまたこうして話せるって思って嬉しくなって、首を何回も縦に振った。
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