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頑張り過ぎに癒しをどうぞ。
「終電間に合って良かったけど」
黒縁の眼鏡越しに目を細くし、ホンワリと微笑む彼氏の顔を思い出しながら、ショルダーバッグからキーケースを取り出した。
「今週も会えなかったや……これで三週間。キミ達は常に一緒なのに」
キーケースに並ぶ、自分のアパートの鍵と彼の部屋の鍵。二つシャラシャラと触れ合う音が寂しい。
「ダメだ、ダメだ。弱ってる場合じゃない。しっかりしろ、自分」
店長代理を務めるファミリーレストランに忙殺されて今週も終わり、営業職の彼も決算期で多忙さを極めていると言っていた。
店に店長が戻って来て、彼の決算期が終われば、互いの忙しさも落ち着き時間も出来るはず。
二つの鍵を指先で撫でながら、思い直してドアを開けた。
「へ?」
暗い廊下を想像していたのに、目の前には電球色の穏やかなオレンジ色。
そうして。
「あ、千鶴さん、お帰り」
先ほど思い描いたのと寸分も違わない笑顔が出迎えてくれた。
「……癒し……」
ぽとり、と、思わず零れた言葉に一瞬キョトンとした彼は、くしゃくしゃの顔でさらに笑顔になる。
「あはは! それは良かった、お疲れ様」
「各務くん、仕事は落ち着いた?」
彼氏の各務くんは人懐っこい笑顔で首を振った。
「もう少しだけど、たまには休まないと体壊すからって、先輩が。だから明日は休み」
玄関を上がりながら話しつつ、ふと姿見に映る自身の姿が目に入りギョッとする。
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