マホウの鏡と幸せのカガミ

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『各務くんの誕生日、休みとれたよ』  たったそれだけの一文を打つのに、みごとに時間を費やし終電を逃したあの日。彼からのレスは秒速で、「ありがとう」とハートマークが文字数制限まで並んだ可愛いが過ぎる画面に、タクシーの中で笑みを零さずに居るのが苦しかった。  数日後からは店長も戻り、本部から送り込まれた社員たちのお蔭で、休憩時間も睡眠も取れるようになった。  毎日たっぷり保水している肌も、気分が弾む体調もすこぶる良い。 「服、ヨシ。髪、ヨシ。肌、ヨシ。ん、上出来」  久しぶりのデートは、どこに行くか決めてない。外で会うのも久しぶり。  どこかフワフワとした気分で、それでいてジッとしていられない。初めてのデートの時のように、ドキドキといつもより主張する鼓動を持て余す。  自分ばかりが舞い上がっているようで恥ずかしい。  けれど。  あの日決めた事のために。――一緒に、住みませんか。  緊張感が出た顔にならないように、鏡に映した自分の口角を上げる。 「“カガミさん”行ってきます」  人の多い週末。待ち合わせに使われる大きな街頭モニターの前での待ち合わせ。近くには大きな噴水広場のある緑地公園もあるので、家族連れでも賑わっている。 「少し早かった」  腕時計に視線を落とすと、待ち合わせの時間より二十分ほど早かった。  くるりと見渡しても、当然、各務くんは居ない。
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