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――待っていたら気にするだろうな。
初めてのデートの時を思い出す。
待たせるより待つ方が良いと思ってきた。誰との待ち合わせとでも同じように、先に着いて待っていたら、焦った様に駆け寄って来て、「誰にも、何も、声掛けられませんでしたかっ?」と必死に聞かれた。「そんな事あるわけないよ」と笑って流していたけれど、あまりにも必死で、焦っている姿で、本当に心配してくれているのを知ってからは、時間の五分ほど前に着くようにしていたのに。
「ちょっと浮かれ過ぎ」
自分の逸る気持ちに苦笑する。
そうして、少しのイタズラ心。
「各務くんが来て待ってくれてるの、すこーしだけ、観察してみよう」
街頭モニターの周辺が見える場所を探して移動すると、良い場所にコンビニを見つける。
――買い物もするので、ちょっと時間潰させてください。
心の中で謝りながら、雑誌の並ぶウィンドー前に陣取った。
「!」
五分ほどしてやって来た各務くんの姿に、ヒュッと呼吸が止まり、ドクン。と、鼓動も止まった……ような衝撃に全身が震えた。
普段している眼鏡を外し、いつもフワフワの洗いざらしの髪は、少しサイドを流すようにスタイリングされている。
モニター前に着くと彼はクルリと周囲を眺め、私の姿が無い事を確認すると嬉しそうな笑みを少し零した。
「……ヤバイでしょ……アナタの方が……」
――あの格好にスーツを着て、あの人懐っこい笑顔で営業されたら、相手も落ちるしかないと思う。
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