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聞かれてしまった恥ずかしさと、居た堪れなさで、フイっとソッポを向くと小さく何かを呟かれた。
聞こえなかったそれとは別に彼は穏やかに微笑んだ。
「だって千鶴さんが呼んだんでしょ。“各務さん”って」
「だから、来たよ」と微笑むと、私を脚の間に納めて背後に座ってしまう。
「でも、最近の千鶴さんは頑張り過ぎかな」
そう言いながら、肩に掛けたままにしておいたタオルで優しく髪を拭ってくれる。
「千鶴さん、オーダーは?」
「十分です」
糖度高めの甘やかしに、これ以上は甘えられない。明日のランチタイム出勤から逃亡してしまいそうだ。
「いやいや、ダメだよ。鏡見ながら独り落ち込むくらいなら僕に言いなよ」
指が長い彼のタオルドライはとても気持ちが良い。甘え過ぎてはいけないけれど。
「そのまま、癒しをください」
「じゃ、ハグ多めで」
背後からギュッと温かい体温で、しっかりと抱き締められる。これでは年甲斐もなくウサギのようにピョコピョコ跳ねる鼓動がバレてしまうじゃないか。
「オーダーと違いますヨ」
焦って身じろぐと、さらにキュッと抱きすくめられた。
「違わないよ、オーダー通りだね」
「もう少しの間、そうしていて欲しい」というオーダーは、蜜多めのサービス付きで提供されてしまった。
でも、それが心地いい。
力を抜いて各務くんの肩を枕にしてしまう。
「各務くんも、お仕事お疲れさまでした」
言いながら、頬の傍に下りてきていた彼の柔らかい髪の毛を撫でた。
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