マホウの鏡と幸せのカガミ

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マホウの鏡と幸せのカガミ

「ここと、このオーダー順番逆になってるよ、気を付けて。稲田くんサラダ入って、ユイちゃんフロアー回れる?」  慌ただしいランチタイム戦争。オーダーの通り具合や流れを読んで、スタッフ達のミスを未然に防ぎながら人員を動かしていく。 「千鶴さん、少しヘルプ必要です」 「フライヤー代わるよ。全部こっち回して」  ランチの後は、カフェタイム戦争。そうしてディナータイムラッシュと駆け回る。閉店を無事に迎えられると、やっぱりホッとしてしまう。 「本当に今日も一日、良く働きました」  更衣室のパイプ椅子に思わず座り込むと、後輩のユイちゃんが「お疲れ様でした」とカワイイ笑顔をくれた。 「最近何だか、千鶴さんイキイキしていてキレイになりましたよね! ってか、前から美人サンなのに、キレイ度が倍以上でマシマシ」 「なんかラーメンみたいだけれど、美人だなんて初めて言われたから、褒め言葉として頂きます」  食事を食べる前の手を合わせるポーズをして、おどけながら椅子から立ち上がる。ロッカーを開けると張り付けた小さな鏡に、少し疲れた顔の自分が映っていた。  実は少し前まで鏡はなかった。疲れた自分を見たくなかったから。でもあの日、各務くんが突然やって来た翌日から、帰る前に少しだけ自分を映す様に貼った。彼に映る私がどんな風なのか確かめる。  『“各務さん”って呼んだでしょ』どこからか各務くんの声が聞こえるようで、ユイちゃんからは見えないように小さく笑んだ。 「本当ですよ~。肌なんてツヤツヤで。どんなに忙しくても優しい笑顔で接客してるの見ると、神々しさで千鶴さんが神様に見える時があります」  余りに聞きなれない言葉が並ぶものだから、冗談としか思えず吹き出してしまった。
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