父さんはいつだって正しかった

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 しぶしぶと個室の戸を開き、顔を水でゆすいだあたしに、姉はよれよれの白い封筒を差し出してきた。 「はい。これよ」 『藤堂(とうどう) (のぞみ)様』  その封筒に書き付けられた端正な文字を見た瞬間、頭を大きい岩で殴られたような衝撃に襲われて、よろめきそうになった。  この達筆な字は、父の書いたものだ。  名前の横には、あたしの借りているアパートの住所が書かれている。 「それね、お父さんの書斎の机に入っていたの。ヨレヨレになっているでしょう? きっと、何度もあなたに送ろうとしたんだと思うわ。でも、結局、最期まで出せなかったのね」  お父さんは不器用な人だったから、と姉さんは眉尻を下げた。  まるで父のように生真面目で綺麗なその文字を見ていたら、目の奥がぐわんぐわんと回ってきた。 『ほら、だから言っただろう。十四年前、私の言うことをちゃんと聞いていれば、こんなことにはならなかったんだ』  まるで、死んでも尚、父にこの生き方を責めたてられているような気がした。それでもなぜだか突き返してしまうことはできなくて、きまりわるい顔をしながらその封筒を受け取った。
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