父さんはいつだって正しかった

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 その日は、十数年ぶりに、実家に足を踏み入れた。  時の経過と共に古びたものの、絶対に女優として大成するという野望を胸にこの家を出ていったあの日から変わらず、母さんの掃除の行き届いた綺麗な家。  使用していた和室の部屋もすっきりと片付いてはいたけど、あたしが大事にしていた舞台演劇のDVDはそのまま取っておかれていて、胸をぎゅっと締め付けられた。  和室に敷いた布団の上で身体を横たえながら、姉さんから受け取ったあの封筒のことがずっと胸を渦巻いていた。  父さんは、なにを書いたんだろう。  なにを、伝えたかったんだろう。  父さんにとってあたしは、言うこともきかずに実家を出ていった挙句、いつまでも叶うことのない夢にすがりついているみっともない娘。  ……きっと、ろくなことは書かれていないだろう。  それでも、気になって眠れなくなってしまったので、あたしは灯りを点けた後、震える手で鞄から封筒を取り出した。
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