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理央を見てもエリは全く気後れはしないのが仁には見えた。
(いつも淡々として、落ち着いているエリは頼もしいよ)
「前田さん、宜しく頼みますね。 今から検査するのですが一緒に検査室に行きますので宜しくお願いします」
「はい! 承知致しました。 では理事長様のベットにいかせて貰います」
静など落ち着いた声でベットに寝ている一之輔に声を掛けていた。
「担当になりましたら前田と申します。 今から脈を取り体温を図りたいと思いますが、宜しいでしょうか」
一之輔は僅かに微笑んで答えていた。
「僕は病人ではないんだよ、回りがうるさいので検査をしに来たんだ」
声も元気な様に思えたエリは安堵していた。
そんなエリの顔を見ながら一之輔も笑いながら言った。
「前田さんというのかい? 僕はわがまま人間なんだよ。 だから困らせることもあるかも知れないね。 その時には無理せずに担当から外れて良いから。前田さんは若い看護師さんだから大変かと思うが、僕を懲りずに頼みますよ」
理央は一之輔が気楽に喋る性格ではない。
そんな一之輔が初対面で話すこと自体が珍しいのだ。
何故この看護師に気楽に言えるのか?
エリに興味を一瞬覚えた。
理央はエリの顔をジックリと見詰めていた。
(際立つ美人でも無いわよね。 派手さも年老いた男を手玉にするような女性には程遠いのに、何故なの? お父さんらしくないわ)
仁は理央がエリを見詰めているのが気に掛けていた。
仁とエリの関係を推測しているのでは無い。
エリが好まれる人間性の存在に興味を持ったのでは無いかと見ていた。
一之輔の和やかな病室の姿を見ながら、エリを担当にしたことが功を成したと思っていた。
エリにはその様な魅力があるのを知っているからである。
一之輔の様子をひと目見ながら、エリは手を取り脈をとっている。
体温計で図り用紙に記入しているようである。
仁はエリを顔の好みで付き合うと思ったことは無かった。
おそらく仁にとっては楽に自分の事を見せれる唯一の女性かも知れないといつも思っていた。
心身とも相性が良いのだと勝手に思っていた。
未だかつてそんな事エリに伝えたことは無かった。
仁は自分の性格を熟知していた。
おそらくそんな事を言うことによりエリにのめり込む事を恐れたのかも知れない。
広々とした南側の部屋一面の窓のカーテン越しから陽射しが眩しいほど溢れていた。
余程天空からの取材でないと、この病室の中は見えないであろう。
用意周到に作られたレースカーテン生地の様である。
南窓に沿った広いベットが設置してあった。
全てが満たす事の出来る病室である。
財を成すとはこの事なのかと、身を以てエリは感じていた。
生まれ持って財を得る事が約束されて居る人達が世の中には居るのだと!
縁遠いエリには上流階級社会の事は全く知らずに生きてきた。
そんな生き方をしたいとも思わなかった。
そんな環境の男性と結婚をする事も頭には無かった。
だからこそ、仁とは今の様な付き合い方が良いのだと、肝に銘じていた。
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