第三章

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 検査室から病室へと戻った一之輔は、疲れてしまったのかベッドに入る否や爆睡していた。  身の回りの事を済ませ、ベットの側に置かれた椅子に腰掛けた。  本来なら患者のベットの脇に用意している椅子に、看護師として座る事は仕事上出来ない事になっていた。  しかし長時間一人の患者の様子を見るには、突っ立ったまま身動きせずに患者に接することは大変な労働力である。  その様な事をこの特別では為ないで良いことを仁から言われていた。  掛け布団を静かに掛けて上げたが一之輔は目を覚ますことは無く、穏やかな顔で寝ていた。  窓の風景はカーテンが引かれているため、見ることは出来ない。  外は微風が頬を撫でる季節である。  あの時もそうであった。  「初めまして、こちらの席に弥生ちゃんのヘルプとして来ました、美月と申します。 宜しくお願いします」  「美月ちゃんというの? ホント初めましてだね。 この夜の仕事も初めてかい?」  「きりちゃんが暫く家庭の事情が有りまして、お休みになりましたのできりちゃんが来るまで働くことになりました」  夜の世界で初めて会話した男性であった。  顔立ちの良さと物静かな言い方は好感が持てた。  やることなすこと初体験で緊張の初日であった。  「美月ちゃん、先生がお帰りになるようなので入口まで見送りして頂戴」  嗜む程度のアルコールでも夜風に頬を撫でる気持の良さを、男性の見送りする店の入口で知った。  生まれて初めて深夜の夜風の気持ちの良さを、今迄忘れたことは無かった。  週に一回はその男性は店に通っていた。  男性のヘルプから指名となった頃には、気さくに言えるようになっていた。  もっぱら聞き役であった。  それが良かったのだろうか?  仁との出会いはそんなことから始まった。  友達のきりこは、父親の故郷に家族で帰ると連絡がきた。  きりこが見瀬に来るまでの間の埋め合わせとして、エリは頼まれて働いたのだ。  来ないとなると店にいる必要は無い。  ママさんに言って店を辞めることを伝えがなかなか辞めさせて貰えなかった理由は全て顧客がエリには多く付いたのだ。  苦手な客商売はエリの父親が生計立てている老舗で、経験していた。  一人娘と言うこともあり、店に出て客を応対したことは一度もなかったのだ。  だから、客商売といっても特に難しい夜の世界で出来るわけが無いと、いつもお客の席に座りながら心に言い訳しながらいた。        
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