第1章

3/18
前へ
/48ページ
次へ
 高校卒業しての勤務体制は常勤となった。  高校の先輩、高橋から食事の誘いを度々声を掛けられていたが、お酒が苦手な大次には気が重かった。  しかし、その度毎に誘いを断ることは出来ないため、5回に一回は付き合いに応じていた。  いつも行く居酒屋『母さんの味処』  60過ぎた年齢であろうか?  声掛けの言いざっくばらんな女将さんは、年代を超えたお客達から『くみちゃん』と、看板に娘?のような呼び名で慕われていた。  「早かったね、ここだよぉ? 太次」  いつもの様に高橋は酎ハイを頼んだ。  吞めるとしたらコップ一杯のビールぐらいしか頼めない大次。  「お前さぁ、彼女いるか、たしかこないだまでは、いないっていってたよな」  「やぶから棒になにそれ? 先輩はそんな事しか聞いてこないよね」  体育系の高橋は大声で笑い飛ばした。  「そりゃ、そうだよ。 お前はイケメンなんだぜ、いない方かがおかしいって。 ところでいないなら合コンに付き合えよ」  全くこの先輩は時々浮いた話を突如として言う事が暫しある。  また、そんな話かと笑って誤魔化し、素知らぬ顔をした。  「オレの会社の職場の大半は独身なんだぁ、それで今度の日曜に、オレを合わせて四人。 数字の四は縁起が悪いから、一人捜してくれと頼まれたんだよ。 なぁ、頼むよ、大次! 一生のお願いだ」  呆れてしまった。  高橋の一生のお願いは今回で何度も聞き飽きていた。  首を振り断ったつもりでいた。  しかし、諦めずにあたま迄下げて来たのだ。  大の大人が酒の席とは言え、頭を下げさせるのは忍びがたく、仕方なく承諾した。  いつもこの調子である。  しかし、高橋の持って生まれた人徳なのか、そんな性格を嫌いになれなかった。  着心地知れている事には変わりは無い。  気分が良いのか、上機嫌である。  合コンしたかったのだろうか?  気を取り直して、コップに入っているビールを口に運んだ。  (ビールが美味しいだなんて、何処が美味しいのか?)  アルコールを嗜む年齢は十分に過ぎていた。  一杯のビールで顔を赤らめ、足元はふらついている。  これから電車に乗りバスで自宅に帰るのが億劫になっている。  いつもの二人の酒飲みのパターンである。  自宅に帰ると不思議に酔いが醒めるのは都合が良かった。    
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加