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そもそも、事の発端はこうだ。
我が桜鳳学院は明治時代前からの伝統私立校だ。戦前は家柄・財力・権力がそろった名家の子弟のためだけの学校だった。その影響で広く門戸が開かれた現在でも、教科書にご先祖が出てくるような家柄の奴らがけっこういる。
そして桜鳳は幼稚舎から大学まである一貫校なのだが、中・高等科だけは男子部と女子部に別れる。ただ二つの校舎は約一駅の距離、徒歩十分程度なので、なにかと交流が盛んだった。
あの日はちょうど五月の体育祭で、僕は中等科からの腐れ縁だった結城蒼介とサッカーの試合に出場した。結城がどうしてもと僕を指名してきたからだ。
足の速いサッカー部のエースに合わせてパスやドリブルフォローのできる奴はかぎられている。しかたなく試合につきあうことになったわけだが、僕はじつのところあまり乗り気じゃなかった。
結城はバレンタインにチョコを山ほどもらう男なので、体育祭の試合は特に観客が女子だらけになる。勝負に集中しづらいのだ。
はたしてアイドルの応援かと思えるほどの黄色い声がこだまする中で試合は始まり、開始早々あいつは格好良くゴールを決めてみせた。
追っかけらしき何人かが悲鳴を上げる。
女子の声ってのはどうしてこう耳に響くんだろう。
男同士でガチにぶつかりあってる最中なのに、うんざりだ。
だがその後も奴は派手に活躍し、歓声は大きくなるばかり、こちらはもう無我の境地でボールをアシストし続けた。
そんな中、事件は最終局面で起きたのだった。
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