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このまま行けば優勝決定戦という終了の笛直前で、結城のミスキックしたボールが女子たちの固まっていた外野を直撃した。
あわや不運な一人の顔面直撃か――と誰もが思ったその瞬間、なんと突然、横から飛び出してきてボールを空手のようにグーパンチした女がいた。
それが七瀬だった。
庇われた女子のほうは派手な破裂音に腰がくだけてその場に座りこみ、声も出せないありさまだったけれど、七瀬は笑顔で周囲に頭を下げていて、僕はひそかに感心してしまった。
へえ、あの子ずいぶん肝っ玉が座ってるんだな。
でもそこへかけよった結城はかなり慌てていた。
――七瀬、おまえっ、さっきの音やばいって絶対。ほらっ、指すげえ腫れてきてないか。
ふうん、あの子結城と顔見知りなのか。そう思った時、
――悪りぃ高遠、こいつ保健室に連れて行ってくれないか。俺が付き添いたいけど、この次、決勝戦だし。
結城が僕を拝んだ。
は? なんで僕が、とガックリきたが、エースストライカーの頼みとあってはしかたがない。それに視線を下げてみれば、パンチング女子がさりげなく隠している左中指は、たしかに付け根から紫色に痛々しく変色している。
これは、と息を飲んだ。
なんでもないフリをしているなんてもんじゃない。
僕は彼女の我慢強さに少なからず衝撃を受けながらも、肩を支えるようにして男子部の保健室までつれていってやったのだった。
――ごめんなさい、迷惑かけちゃって。どうもありがとう。
七瀬はそんなふうにして突然、僕の前に現れた。
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