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あの時、濃紺のセーラー服が部屋の中に消えてすぐ、そのまま試合に戻ることもできたはずだった。
でも僕はそこに留まった。なんとなくさっきの彼女の青白い横顔が脳裏にちらついて立ち去りがたかったからだ。
そのまま廊下で待っていると、当人が戸を開けて出てくる。お辞儀して戸を閉めるや、おもむろにどうしよう、と呟いた。
やっぱり、なにか困ってたのか。
僕はさっきみんなの前で見せていた強さと、その頼りなさげな表情のギャップに息を詰めた。なにか見てはいけないものを見てしまったような。
だがどうやらそれは相手も一緒だったようで、こちらに気づくやぎごちない笑顔を浮かべると、
――あのう、あなた結城蒼介さんのお友達でいらっしゃいますよね? 私、春野七瀬と申します。蒼介さんとは小学校が一緒で。
ああ、と僕はうなずいて自分も簡単に自己紹介した。
高遠朝陽、高校二年。桜鳳学院には初等科から通っていて、結城とは中等科からの腐れ縁。
――そう。じゃ、私たち同級生だから、敬語じゃなくてもよろしいでしょうか……いいかな。
七瀬は僕が何者かわかったとたん、安心したように気安い口調になって、
――悪いんだけど高遠くん、ここから駅までの最短ルートってわかる? 私、男子部って一人じゃ来ないからよくわからなくて。
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