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左手に巻かれた包帯が生々しかった。傷はやはり痛むらしく、ときおり顔をしかめながら七瀬は唇だけで微笑んだ。
――私ね、午後からバレーボールのクラス対抗戦に出る予定だったんだ。でもこの指じゃ無理だし、早く病院に行けって言われちゃったから。友達が先に戻ってくれたけど、とにかく一度、私も女子部に戻らなきゃ。
言いながら、はあ、とまたため息をつくのでよっぽど試合に出たかったんだろうかと気の毒になった。
十七の男が渾身の力をこめて蹴ったボールを素手でパンチなどしなければ、この子は今日、何事もなく一日を終えられたはずだろうに。
そのまま並んで廊下を歩き、外へ出る。
僕は男子の中でもわりと背が高いほうなのだけれど、七瀬はそれより少し低いくらいに上背がある。おそらく結城同様、バレーチームの中心的な存在だったんだろう。
ところが七瀬はそう問うと首を横に振った。
――ううん。正直言うと私、試合に出られなくなって今ちょっとほっとしてるかも。本当はあんまり、体育祭で浮かれたい気分でもなかったから。
それはどういう意味なんだと思ったが、なんとなく突っこんじゃいけない雰囲気を感じたので黙っていた。すると七瀬はまた、深いため息を一つつく。
――それより今週末がまずいなぁ。この手じゃ無理かも。蒼介って部活の予定とか入ってるのかな。手伝ってほしいことがあるんだけど……。やっぱり部のエースじゃ厳しいよね。
その手伝いというのが、まさか七瀬の従姉が入っている桜鳳学院大学サークルの補助員で、人形劇をやることだったとは――。
この時僕はそんなこととは知るよしもなかったから、あいにく結城は練習試合が入っているけれど、自分なら手が空いていると正直に応えてしまったのだった。
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