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「……春野さんさ、ケガした手はもう大丈夫なの」
僕はペットボトルのフタを閉めながら、なにげない雰囲気を装って七瀬に声をかける。
花の女子高生が週末に一人、Tシャツとジーンズ姿で大学生たちとボランティア活動。
彼女、どう考えてもあまり普通にいるタイプじゃない。そう思うと失礼だが物珍しさも先に立って、つい彼女のことがもっと知りたくなる。
「うん、なんとか不便なく生活できるようにはなってきたんだけどね。まだ重いモノは持てなくて。フライパン持つとやばいかな」
どうやらよく料理するみたいだ。
「それより高遠くん、いつもは眼鏡なんだね」
僕はああ、と眼鏡のふちに手をやる。
「この間は試合だったから」
「部活は? サッカーやらないの?」
結城からなにか聞いてるんだろうか、と一瞬思った。何度部活を辞めた理由を説明しても、あいつはいまだに僕が戻ってくると信じている。
「この間の試合も、蒼介より流れをよく読んで動いてた感じがしたけど。一応、経験者なんでしょ?」
僕は内心、七瀬の観察力に驚いた。目立ちすぎると色々言われるから、結城や他のサッカー部のやつらが花になるよう考えて、パスを回していたのに。
「そういえば凜子ちゃんがね、あ、このあいだボールぶつかりそうになった子なんだけど。高遠くんはなんでもできる秀才なんだって褒めてたよ」
七瀬はなにが嬉しいのか、ふふふと笑う。僕の記憶するかぎり、彼女は八割くらい笑っている気がする。
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