僕はその言葉を聞くたびにニンマリ笑う

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僕はもう、どうにも我慢ができなくなってきた。そんな彼氏に振り回されている彼女を見るのがつら過ぎた。そして、攻めに出ることにした。 「高橋さん、相談したいことがあるので、今日、飲みに行きませんか?」 「いいよ。どうしたの? 悩みでもあるの?」 「まあ、そんなもんです」 あなたの心の中を、僕で一杯にしてみせる。 僕たちは二人で会社を出て、繁華街の居酒屋に向かって歩いていた。あたりはもう暗くなって、ネオンがともっていた。今日はどこかでイベントがあるのか、いつもより人が多かった。その時、彼女が動かなくなった。 「高橋さん、どうかしましたか?」 凍り付いた視線の先には、じゃれあいながら歩く、少し派手な感じのカップルがいた。僕は察した。あの男は彼氏に違いないと。 背の高いイケメンと、茶髪で華やかなセクシー系美女が腕を組んで歩いていた。彼らは話に夢中で、僕らに気づかず、こっちへ向かってくる。 僕は決意した。 「高橋さん、行きますよ」 彼女の肩に腕を回し、ぐいと引き寄せ、体を密着させた。彼女は一瞬ハッとして僕を見たが、僕は強引に歩き始めた。そして、彼らの視界に入るころを見計らって彼女の髪にキスをした。その時だ。イケメンが一瞬立ち止まり、彼女を見た。僕はヤツをにらみ、彼女を隠すように反対の腕で肩を抱いた。ヤツは一瞬つまらなそうな顔をしたが、何も知らずに話しかけてくる連れの女に答えながら、去って行った。 おい、彼氏! 取り返さないのかよ! 僕は彼女の顔を覗き込んだ。黙って耐えているのが分かる。 「ごめんなさい。僕がしたことは余計なことでしたか?」 彼女がぽろぽろ涙をこぼし始めた。僕は思わず抱きしめてしまった。ちっちゃな彼女は僕の肩より下にすっぽりおさまる。彼女は抵抗しなかった。そのまましばらく泣いていた。
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