「お父さん」 追悼

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1、 病院 「まずは、新羽だね」 「そう、起きてるかした、出る時電話してって言ってたから」 そういいながら、助手席の妻は、スマホを耳にかざした。 「プププ、プププ、プププ・・・」 「はい、あ、お母さん。起きてるよ 大丈夫」と声が漏れてきた。 電話の相手は、娘のまり絵だ。 「今、新横の橋 渡ったから 後、10分かな」と妻は答えた。 娘は、社会人で新羽駅近くの賃貸マンションに住んでいる。 マンション下には、コンビニがありそこに車は止められる。 コンビニで、コーヒーを買っていると、娘が降りてきた。 「おはよう、これからお兄ちゃんの所に行くのね」 「そう、急ぎましょ」と妻は急かした。 私達は、車に乗り込み、そこから港北I/Cに向かった。 そして、そこから乗って次の川崎I/Cで降りた。何だか せわしい。 降りてから、小杉御殿町の交差点を目指した。 その近くには、長男の雄太が住んでいる。同じく賃貸マンションだ。 そこから、東京の大崎に通っている。 マンションと反対側に車を停車させるスペースがあるので、そこに止まって いると、長男の姿が見えた。 「おはよう」と三人が言うと 「お は よ う」と眠そうな挨拶が帰ってきた。 今日は、土曜日の9時なので普段なら寝ているのだろう。  これで、家族がそろった。 そこから、246号線から環状八号線 通常環八を真っすぐ北上し、関越自動車道の練馬I/Cを目指した。 環八は、いつも混んでいて空いている時は無い。あまりに混雑する時は 環七に周ったりするのだが、今日はそこそこ流れているので迂回ぜずに行く事にした。 「おじいちゃん、大丈夫?」と まり絵 「先週 二人で行った時は 普通にしゃべってた。普通に元気だったのよ」 と妻 「そううなんだ、でも だめなんでしょ」 「お医者さんは、しゃべっているのが不思議だって 言ってたようよ」 「叔父ちゃんが付いてるの?」とまり絵 叔父とは、私の兄だ。実家で同居している。 「悦ちゃんも行ったみたい」と妻 悦ちゃんとは、私の妹だ。 事前に、二人の子供達には父の症状が芳しくない事を伝えていた。 病名は、心筋梗塞だ。もう すでに半分は停止している。持って1週間の 診断だと兄から聞いた。 その為、今週に行かないと医者の言う通りだとすると、間に合わないのだ。 「二人共、随分、おじいちゃんに会ってないよね」と私 「う~ん、 おばあちゃんの葬式依頼かな」と雄太 「そうだね。私も」とまり絵 母は、5年前に逝っている。 子供達が小さい時は、毎年 実家に行っていた。 夏は、プールとかアスレチックで一日中遊べたのだ。 そんな話をしながら、道を急いだ。 谷原の交差点を左折し、真っすぐ行くと、まもなく練馬インターに入る。 入って、少し走ると三芳PAがある。 そこで、トイレ休憩を急いで済まし、直ぐに発進した。 目指すインターは、嵐山小川だ。30分ほどで着くだろう。 そこから、病院までは更に30分ほどかかる。 あと、1時間か。まあ まあ 予定通りかな。 そう思いながら、運転していると、嵐山小川出口の標識が出てきた。 そこを降りて、一般道に入った。 3月の終わりで、周りは桜が咲き誇っている。 先週、病院に見舞いに行った時も、近くの公園はとても綺麗に 咲いていた。 父の誕生日は、3月26日で、入院している時に90歳を迎えたのだ。 あと、10分ほどで病院に到着する時に、妻のスマホが鳴った。 妻は、それを見ていた。 そうこうしている内に、病院に到着した。 駐車場に車を止め、病棟に向かった。 その途中で、妻が 「実は、悦ちゃんから連絡がはいったの」と言った。 「30分前に息を引き取ったって、 運転中だと動揺するかと思って 近くまで 待ったんだって」 「そうか、さっきのスマホはそれだったか。ちょっとそんな気がした」 「え、おじいちゃん、間に合わなかったの!」とまり絵 「うん、待っててくれると思ってたんだけど・・・・・・」と妻 そうか、間に合わなかったかと思いながら、病室を目指した。 病室の前には、妹がいた。 私達を見つけると、 「遠くから、ありがとう。・・・今 処置してもらってるの。まだ暖かいよ」 先週来た時に、兄から延命はしない事を聞いていた。 本人も、うすうす分かっていた様で 「痛い事は嫌いだから、手術はいい」と言っていたと兄が話してくれた。 私も、90歳まで生きられたのだから、十分の往生だと賛成したのだ。
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