2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
午前2時半、東北自動車道を走っている。どこで降りるのか、まだ、定かではないのだけれど。
休憩のために、自販機とトイレだけの小さな休憩所に入る。運転手が休んでいるのか、駐車場には車が2台、止まっていた。
トイレから出てくると、木村さんがホットコーヒーを手渡してくれた。
「ありがとうございます」
4月の終わり、夜明け前はまだまだ寒い。コーヒーの温かさが身体に染みる。
空を見上げた。
今日は曇りか、どんよりとした重たそうな雲で溢れていて星は見えない。
「最後をまさか、木村さんと一緒に迎えるとは思わなかったな」
その言葉に木村さんは苦笑する。
「いや、マジで。俺とで終わりでいいのかって思うよ。ご家族に悪い気がしてならないよ」
「いやいや。まぁ、でも、ラスト1週間、考えてみると、妻と何を話していいかわからないんですよね。最後は愛してるの言葉で締めればいいと思うけど、その前が、この1週間がどうすればいいのか難しくないですか?」
「普段、何話してるの?」
「いやぁ、特に何も。子供のこととかかなぁ」
「そっかぁ、それは俺はわからん世界だからなぁ。コメントできないや」
私はコーヒーの缶を落下してくる隕石に見立ててみる。それに対して、地球を平面でとらえたら、この駐車場ぐらいか。
幼児の子供が遊ぶように、ヒューン! ドカーン!!って、やってみた。
「いやいや、どんな空間把握してんの? もっと地球広いでしょ? これ直径30キロだよねー?」
木村さんが私の妄想に割り込んでくる。
「いやいや、木村さん、奥まで見えてる? あそこまで踏まえての話だからね」
深夜の高速サービスエリアの駐車場で遊ぶ中年男性2人、はたから見たら不思議な図だろう。
まぁいい。もう全てが許されるんだから。
「今更ですけど、木村さん、誰かに挨拶とかよかったの? 行きつけの店のおねーさんとかにさ」
「んー。そんなのないから。俺、酒嫌いだし。おねーさんは嫌いじゃないけど、宇宙ほどには好きじゃない」
「おお、木村さん、名言。やっぱり宇宙いいですよねー」
「いいねー」
「もう、それだけ考えていたい」
「だねー。だからね、今回の隕石落下。悲しいけど、俺、やっぱり地球は宇宙の一部なんだって、本当に心から思って、なんかこう、うまく言えないけど、やっぱり宇宙すげーなって本当に思う」
「ああ、確かに。そうか、宇宙の一部かぁ。なるほどねー。木村さん、やりたいのって地球外生命体とかに関してだっけ?」
「そうだよー! ああ、そうだ! 海王星からの結果がわからず死んでいくのか。ひでぇ、ああ無念だな~」
木村さんは駐車場に腹ばいになって、駄々っ子のようにジタバタしはじめた。
私はその姿をみてゲラゲラと笑う。
「ああ、何かこれでいいのかもしれないなー。山からの景色を見ながら、宇宙の話で盛り上がって、終わりって言うのは悪くないかも」
「うん、悪くない。で、どこの山にするの?」
「他に人が来ない山」
「いやぁ、誰も来ないと思うけどね」
「そっか。まぁ、ゆっくりあと2,3日はバレるまで時間あるから、それまでに捜せばいいんじゃないですか」
「だねー」
「いろいろ宇宙の話をしましょう」
「うん、あれ、小林君の宇宙好きのきっかけは何?」
「え、私ですか。すっごくベタなんですけど~」
END
最初のコメントを投稿しよう!