星が降る前に

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 午前2時半、東北自動車道を走っている。どこで降りるのか、まだ、定かではないのだけれど。 休憩のために、自販機とトイレだけの小さな休憩所に入る。運転手が休んでいるのか、駐車場には車が2台、止まっていた。 トイレから出てくると、木村さんがホットコーヒーを手渡してくれた。 「ありがとうございます」 4月の終わり、夜明け前はまだまだ寒い。コーヒーの温かさが身体に染みる。 空を見上げた。 今日は曇りか、どんよりとした重たそうな雲で溢れていて星は見えない。 「最後をまさか、木村さんと一緒に迎えるとは思わなかったな」 その言葉に木村さんは苦笑する。 「いや、マジで。俺とで終わりでいいのかって思うよ。ご家族に悪い気がしてならないよ」 「いやいや。まぁ、でも、ラスト1週間、考えてみると、妻と何を話していいかわからないんですよね。最後は愛してるの言葉で締めればいいと思うけど、その前が、この1週間がどうすればいいのか難しくないですか?」 「普段、何話してるの?」 「いやぁ、特に何も。子供のこととかかなぁ」 「そっかぁ、それは俺はわからん世界だからなぁ。コメントできないや」 私はコーヒーの缶を落下してくる隕石に見立ててみる。それに対して、地球を平面でとらえたら、この駐車場ぐらいか。 幼児の子供が遊ぶように、ヒューン! ドカーン!!って、やってみた。 「いやいや、どんな空間把握してんの? もっと地球広いでしょ? これ直径30キロだよねー?」 木村さんが私の妄想に割り込んでくる。 「いやいや、木村さん、奥まで見えてる? あそこまで踏まえての話だからね」 深夜の高速サービスエリアの駐車場で遊ぶ中年男性2人、はたから見たら不思議な図だろう。 まぁいい。もう全てが許されるんだから。 「今更ですけど、木村さん、誰かに挨拶とかよかったの? 行きつけの店のおねーさんとかにさ」 「んー。そんなのないから。俺、酒嫌いだし。おねーさんは嫌いじゃないけど、宇宙ほどには好きじゃない」 「おお、木村さん、名言。やっぱり宇宙いいですよねー」 「いいねー」 「もう、それだけ考えていたい」 「だねー。だからね、今回の隕石落下。悲しいけど、俺、やっぱり地球は宇宙の一部なんだって、本当に心から思って、なんかこう、うまく言えないけど、やっぱり宇宙すげーなって本当に思う」 「ああ、確かに。そうか、宇宙の一部かぁ。なるほどねー。木村さん、やりたいのって地球外生命体とかに関してだっけ?」 「そうだよー! ああ、そうだ! 海王星からの結果がわからず死んでいくのか。ひでぇ、ああ無念だな~」 木村さんは駐車場に腹ばいになって、駄々っ子のようにジタバタしはじめた。 私はその姿をみてゲラゲラと笑う。 「ああ、何かこれでいいのかもしれないなー。山からの景色を見ながら、宇宙の話で盛り上がって、終わりって言うのは悪くないかも」 「うん、悪くない。で、どこの山にするの?」 「他に人が来ない山」 「いやぁ、誰も来ないと思うけどね」 「そっか。まぁ、ゆっくりあと2,3日はバレるまで時間あるから、それまでに捜せばいいんじゃないですか」 「だねー」 「いろいろ宇宙の話をしましょう」 「うん、あれ、小林君の宇宙好きのきっかけは何?」 「え、私ですか。すっごくベタなんですけど~」              END
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