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自らの意思であの学園に行くことを決めた夕詞様を、言わば旅立つ勇者を見送るつもりで見ていた俺に一体何を言い出すのか。
「冗談はよしてください、旦那様。私は天道家の一使用人。腕力で競えば新人のメイドにも負けるこの私に、護衛の真似事をしろとおっしゃるのですか?」
そうだ。俺には『腕力の小野寺(笑)』という誰もが知る通り名がある。そのあだ名は旦那様も聞いたことがおありのはずだし、俺に話を持ってくるなんてむしろ夕詞様を誘拐してくれと言わんばかりの行為だろう。
あ、因みに俺の名前は小野寺 美景(おのでら みかげ)です。以後よろしく。
「い、いや何故そんなに誇らしげに言うのか疑問だけど、美景の実力は知っているよ。誰もが頼りにならないと言っているし、小野寺 美景に荷物運びを頼むくらいなら野良犬の背にくくりつけた方がましという例え話もよく聞く。」
······ほおお?誰だそんな事を言う命知らずな奴は。何なら見せてやろうじゃねえか、俺自慢の上腕二頭筋をなあ!
そしてその後は奥様に言いつけてやる!!何故か昔から俺を可愛がってくれるあの方なら、俺の屈辱を晴らしてくれるだろうしなあ!
まあ、そんな話は置いておいて、真面目に意味が分からないんだが。いや、まじで、俺何の役にも立たない自信あるんだけど?
「あの学園は本当に厳重なんだ。美形でお金持ちの息子がわんさかいるから、生徒側として誰か入らせようとすると、年齢が上すぎたら裏があるのか探られるし、教師側として入るにもすごく審査されるんだ。うちの執事達はみんな三十歳以上だし。············君以外は、ね。」
うげえ、旦那様、珍しくしっかり考えてるな。いつもはボーッとしてて奥様の尻に敷かれてる方なのに。
「······ねえ、美景。結構ひどい事考えてない?表情がすごい物語ってるよ。」
「······いえ、何も?ですが旦那様、私は確かに今年で十七。世の中で言う高校生ですが、高校卒業の資格はとっくに取りましたし、もう天道家に就職しているような状態なのですが?」
「そりゃあそうだけど。でも頼むよ、美景以外に適任者は誰もいないんだ。それに美景って美形だし、美形だらけの学園で変に浮くこともないと思うし。ね?心配事なんて何も無いだろう?」
夕詞様に比べればみんな案山子のような顔になるんだが。
正直行くのめんどくさいし、何か夕詞様なら大丈夫という謎の安心感さえあるんだが。でも旦那様に猫なで声ですり寄られる今の状況に耐えられない。これからこうしてしばらく言い続けられるのかも知れないと思うと吐きそう。
「······わかりました、行きます、行けばいいんでしょう?」
「ああ、ありがとう美景。じゃあ早速準備してくれ。夕詞は明日から寮に入るから。」
·············はい?
「ふふ、今から学園に電話するけど、僕、こう見えて天道家の当主だからね。絶対明日から通えるよ。」
え、心の準備期間なし?
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