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君のニキビまで愛してる
「もう嫌だ……」
陽菜子は、ミノムシのように布団にくるまったまま、出てこようとしない。
「ヒーナー。そんな落ち込むなって。
主任モテるんだから、お前に好かれていようがいまいが、そんなに気にしてないって」
涼が、慰める気があるのかないのか分からないセリフを吐き、布団をめくろうとする。
「涼ちゃんのバカ!そんなの知ってるもん。
だから伝えるつもりなんかなかったのに……!」
陽菜子はますますかたくなに、布団に潜り込んでしまった。
陽菜子は、同じ職場の斉木主任のことが好きだった。
しかし、自分の容姿に自信がない陽菜子は、告白なんてめっそうもないと思っていたし、気持ちを伝える気なんてなかった。
それなのに、同期のユイとしていた恋バナを、偶然、事務のお局様に聞かれてしまったのだ。
歩くスピーカーと言われる彼女によって、その日のうちに「陽菜子が斉木主任を好き」という噂が、一気に広まってしまった。
「どうしよう~……明日から仕事行けないよぉ」
泣きながら訴える陽菜子を、涼は布団の上から、ぽんっぽんっと優しく叩いた。
「もうさ、いっそ告ってバッサリとフラれてみたら?」
「何でフラれるの前提なの!分かってるけどムカつくぅぅぅ!」
「お前ね、オレに何て言って欲しいの?
主任にもそれくらい思ってることハッキリ言ってみろよ」
「言えるわけないじゃん!ただの幼なじみと、憧れの主任とじゃ、全然違うじゃん!」
陽菜子と涼は、家が隣で、生まれた時からの幼なじみ。
高校、大学は陽菜子が女子大に行ったため別々だったが、大学卒業後は、同じ会社に同期として就職していた。
「……へー」
涼は不機嫌そうにそう言うと、すっと立ち上がった。
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