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「さっ、次はニイさんね」
続けて戦おうとする千秋にニイは首を振る。
「引っ込んでな。オレの相手はそっちのゴリラ女だ」
「メインイベンター同士でやるならともかく、前座の立場で仕切らないでよ」
「そっちこそ出しゃばるな。オレたちはゴリラ女を相手するために来てるんだ。捕まる前にどうしてもケリを着けたくてこんなマネしてるんだ、ジャマするな」
自分の都合を押しつけるなと言い返そうとしたが、その前にハジメに肩を掴まれて言葉を飲む。
「代わって千秋。望みどおり相手してやるわ」
「あんたねぇ──ああもう、わかったわよ」
入れ代わり、千秋は葵たちのガードにまわる。
ハジメは闘志むき出しでニイを睨みつけクイクイっと手招きする。
「あーあ、完全に頭に血が上ってるわね。相手が再起不能にならなきゃいいけど」
千秋のボヤキに夏生が訊ねる。
「おねーさまどうかしたの? なにかものすごく怒ってるみたいだけど」
「ハジメって小さい頃から空手を習ってたから、男子相手にしても強かったのよ。だから口惜しかった男の子たちにゴリラ女ゴリラ女って何度も言われてね、今だにそう言われると怒るのよ」
仁王立ちしているハジメの背中を見て、夏生はかつてなく男らしさ──じゃなくてたくましさを感じる、ニイは隊服を脱ぐとハジメの前に立ち、構える。
「あ、やば」
「どうしたの千秋」
「あの構え、中国拳法の……たぶん太極拳ね。やばいなぁ、やっぱり私がやればよかった」
「どういう意味」
葵の質問に答える前に、ハジメから仕掛けでバトルが始まった。
左右の正拳突きから左下蹴りの右前蹴りと鋭い攻めをするが、ニイはそれをすべて捌く。そしてカウンター気味にハジメの左脇に手刀を入れる。
「痛ぅ!」
一旦離れてハジメはあらためて構える。
「やっぱりこうなったか」
「千秋、解説して」
「ハジメのスタイルってバカ正直なのよ、まっすぐ力で倒すの。だから中国拳法みたいに相手の力を利用する戦法とは相性が悪いの」
「え、じゃあ勝てないの」
「落ち着けばそうでもないけど……、あのニイさんは二位だけあって強いからなぁ」
千秋の言葉を聞いて夏生はハジメに声援をおくる。
「おねーさま、落ち着いて。負けないで」
夏生の声援が聞こえたのか、ふたたび攻めるハジメは先程より手数が多い連続技をくり出す。
だがニイはそれらをすべて捌きいなし、踏み出した脚を引っ掛け掌底をハジメの顔に当てて倒し、とどめを刺そうとするが、ハジメは間一髪で身体をよじって逃げ出し立ち上がり、息を荒げながら構えをとる。
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