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──相撲の立ち合いのように、どちらともなく呼吸を合わせて同時に攻撃にでた。
手数の多いハジメの攻めを捌いて、リキヤの攻撃が始まる。
突きも蹴りも鋭く重い、ハジメはさすがに防戦一方となってしまう。
あまりにも威力があるので内受けで捌ききれないので、外受けばかりとなる。それを見て葵と夏生と御器所はどんどん心配になってきた。
「大丈夫なの千……ユカ。全然手が出なくなってるけど」
「おねーさま、がんばって、負けないでー」
「大口叩いてあのザマかよ、アマゾネスの名が泣くぞ」
それらの言葉を無視して千秋はじっと戦いを見つめている。
攻め疲れたのかリキヤの攻撃が止む。息をととえながらリキヤはハジメに言う。
「タチ悪いなアンタ」
「リキヤが強いからよ」
二人の会話を聞いて、千秋以外の三人は、え? という顔になる。千秋だけがニヤついて、わかっているようだった。
「ユカ、解説して」
「はいはい。ハジメは防御しているだけに見えたでしょうけど、攻撃もしてたのよ。手技の攻撃は受けてただけだけど、蹴りは受けながらカウンターで突きを入れてたの。だからリキヤは足にダメージを受けて動けなくなってるの」
「え、ハジメがそんな頭脳戦をしてたの」
「ううん、あれは多分、蹴りの威力を全力で受けるつもりだけだったと思う。それがたまたまカウンターになっただけよ」
どちらにしろ結果的にリキヤは動けなくなり、ハジメのターンとなった。
前立ちの中段突きの構えから、深呼吸をして思いっきり息を吸う。
それを見て千秋は何をするか気がついた。
「アレをやるつもりね……リキヤくんご愁傷さま」
リキヤも先程見た追い突きが来ると思い、腹に力を込めて耐える用意をする。
緊張の時間が数分──もしくは数秒だったのか──それが過ぎたのち、ハジメが一気に踏み込んだ。
「破ぁ!!」
右正拳突きがリキヤの腹にめり込む、顔が歪むが下がることなく堪えた。そして追い突きを予想してさらに踏ん張る。だが来たのは追い突きではなく左正拳突きだった。
「荒ぁ!!」
(な、なにぃ?!)意表を突かれたリキヤにかまわず、腰を落としてハジメは左右の連打をずっと鳩尾に打ち込み続ける。
「アーラララララララララララララララララララララ」
横隔膜を的確に撃ち筋肉の硬直化により動けないうえに、息ができなくてチアノーゼが起きはじめる。
(こ、この……いい加減に……)
「ラララララララララララララララララララララララ」
ハジメの連打は止まらない、まだ続ける、まだ続く、リキヤの顔から血の気が引いてきた。
「ぐ、ぐあぁあぁ」
「ララララララララララララララララララララララ」
さすがに耐えきれなくなり弱音が出てきたが、それでもハジメの連打は止まらなかった。
「ララララララララララララララララララララララララ」
「や、やめろ…やめて…やめてくれ…」
リキヤの言葉を聞かず、ハジメはまだ止まらない、リキヤはついに恐怖を感じ始めた。
(コ、コイツはオレを殺す気だ、死ぬまでこの苦しみと痛みを味あわせる気だ)
「ララララララララララララララララララララララララ」
「それまで」
夢中で叩き続けるハジメを、後ろから羽交い締めにして千秋がとめる。それでようやくハジメは我を取り戻したのだった。
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