ハジメの予感

3/11
前へ
/114ページ
次へ
 ──相撲の立ち合いのように、どちらともなく呼吸(いき)を合わせて同時に攻撃にでた。  手数の多いハジメの攻めを捌いて、リキヤの攻撃が始まる。  突きも蹴りも鋭く重い、ハジメはさすがに防戦一方となってしまう。  あまりにも威力があるので内受けで捌ききれないので、外受けばかりとなる。それを見て葵と夏生と御器所はどんどん心配になってきた。 「大丈夫なの千……ユカ。全然手が出なくなってるけど」 「おねーさま、がんばって、負けないでー」 「大口叩いてあのザマかよ、アマゾネスの名が泣くぞ」  それらの言葉を無視して千秋はじっと戦いを見つめている。  攻め疲れたのかリキヤの攻撃が止む。息をととえながらリキヤはハジメに言う。 「タチ悪いなアンタ」 「リキヤが強いからよ」  二人の会話を聞いて、千秋以外の三人は、え? という顔になる。千秋だけがニヤついて、わかっているようだった。 「ユカ、解説して」 「はいはい。ハジメは防御しているだけに見えたでしょうけど、攻撃もしてたのよ。手技の攻撃は受けてただけだけど、蹴りは受けながらカウンターで突きを入れてたの。だからリキヤは足にダメージを受けて動けなくなってるの」 「え、ハジメがそんな頭脳戦をしてたの」 「ううん、あれは多分、蹴りの威力を全力で受けるつもりだけだったと思う。それがたまたまカウンターになっただけよ」  どちらにしろ結果的にリキヤは動けなくなり、ハジメのターンとなった。  前立ちの中段突きの構えから、深呼吸をして思いっきり息を吸う。  それを見て千秋は何をするか気がついた。 「アレをやるつもりね……リキヤくんご愁傷さま」  リキヤも先程見た追い突きが来ると思い、腹に力を込めて耐える用意をする。  緊張の時間が数分──もしくは数秒だったのか──それが過ぎたのち、ハジメが一気に踏み込んだ。 「破ぁ!!」 右正拳突きがリキヤの腹にめり込む、顔が歪むが下がることなく堪えた。そして追い突きを予想してさらに踏ん張る。だが来たのは追い突きではなく左正拳突きだった。 「荒ぁ!!」 (な、なにぃ?!)意表を突かれたリキヤにかまわず、腰を落としてハジメは左右の連打をずっと鳩尾(みぞおち)に打ち込み続ける。 「アーラララララララララララララララララララララ」 横隔膜を的確に撃ち筋肉の硬直化により動けないうえに、息ができなくてチアノーゼが起きはじめる。 (こ、この……いい加減に……) 「ラララララララララララララララララララララララ」 ハジメの連打は止まらない、まだ続ける、まだ続く、リキヤの顔から血の気が引いてきた。 「ぐ、ぐあぁあぁ」 「ララララララララララララララララララララララ」 さすがに耐えきれなくなり弱音が出てきたが、それでもハジメの連打は止まらなかった。 「ララララララララララララララララララララララララ」 「や、やめろ…やめて…やめてくれ…」 リキヤの言葉を聞かず、ハジメはまだ止まらない、リキヤはついに恐怖を感じ始めた。 (コ、コイツはオレを殺す気だ、死ぬまでこの苦しみと痛みを味あわせる気だ) 「ララララララララララララララララララララララララ」 「それまで」 夢中で叩き続けるハジメを、後ろから羽交い締めにして千秋がとめる。それでようやくハジメは我を取り戻したのだった。
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加