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──葵による江分利夏生という少年のプレゼンテーションは成功をおさめた。
ヤングマフィアやジャパニーズマフィアが欲しがるほどの才能というのなら、バックアップしてみようと言ってくれたのだ。
「パパ、その役目はボクにやらせてくれないか」
「いいのかジェイク」
「もちろん。ちょうど帰国するところだし、ナツキのバックアップはボクがするよ」
トーマスの息子はジェイクというらしい。二十代半ばくらいで刈り上げた金髪と爽やかな笑顔が印象的な好青年だ。
その後、ケイにより加工編集された動画がタクマの殺人請負サイトに投稿されると、ゲームオーバーのためこの依頼は無効になったと表示され、すぐさまサイトは閉鎖された。
盗聴アプリを削除したあと夏生は矢島に連絡、予定通り出発するので用意をしておくように言う。
葵は父と学校に連絡して、夏生の無事を伝える。
そしてハジメは……、今日一日で九人を相手した疲労とずっと食事をしていない空腹が一気に襲ってきて、ひと通りの報告のあと眠りこけてしまったのだった。
※ ※ ※ ※ ※
三人が一泊した翌朝の土曜日、御器所と矢島が夏生の荷物を領事館に持ってきて、中身を確認をすると全員(夏生、ハジメ、葵、御器所、矢島、ジェイク)でセントレアへと向かう。
外交官ナンバーのセダンにジェイク、夏生、葵が乗り、後続の覆面パトカーにはハジメと御器所がのる。
「タクヤはどうなりましたか」
「まだ逃走中だ。スープラを捕まえたときにはもう乗ってなかった、途中で降りて逃げたらしい」
「手下を盾にするなんて卑怯なヤツ」
「──それがどうも、そうでもないらしい」
「どういう意味です」
「タクヤが手下を盾にして逃げたんじゃなくて、手下が盾になって逃したみたいなんだ。捕まった連中は口を揃えて、自分のことよりタクヤのことを心配していると報告があった」
「そんなバカな」
ハジメからすれば、夏生を騙し脅し命を狙い、カナやリキヤをはじめとする手下を見捨てて逃げた卑怯者としかうつらない。そんなヤツを守ろうとするのが信じられなかった。
「ときどきいるんだよ、ヒトを魅了する才能っていうのかな、タクヤもそういうヤツかもしれないな」
何事もなくセントレアに着き、搭乗手続きを済ませ、搭乗待合室でお別れの挨拶をする。
「色々あったけど、無事に行けそうね。立派な数学者になってね」
「おねーさま気が早い、まだ交換留学に行くだけだよ」
「そのまま移住するんじゃなかったの」
「うん、そのつもりだったけど……なんかね、逃げちゃいけないと思ったの。おねーさまの逃げずに戦う姿を見たせいかな? それと大人って悪いヒトばかりじゃないって、葵先生たちを見てそうも思ったから」
「そう。それじゃサヨナラじゃなくて、行ってらっしゃい、と言わせてもらうわ」
「うん、行ってきます。帰ったらまた会ってくれますか」
「ふつーに会いに来てくれたらね」
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