ハジメの予感

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 疲れた顔をしたハジメの隣に、今回の主催者である葵、ハジメの対面に千秋、そしてその隣にケイが座る。いつもの定位置だ。 「料理も飲み物も届いたわね、それじゃ特捜解散を祝して乾杯しましょうか」  葵の音頭でグラスやジョッキを合わせて乾杯をしたあと、銘々に食事を始める。 「あー疲れたー。暴漢相手に戦ってる方がまだマシよ」  生中のジョッキを空けたハジメの第一声に、ケイが苦笑しながら訊ねる。 「つきあげ捜査と書類作成、お疲れ様。それでどうなったの」 「うーんと、色々とまだ言えないことあるけど──」  言葉を選んているハジメの代わりに葵が答える。 「ま、概ね報道どおりよ。江分利組は壊滅状態、半グレチーム鎧武も解散状態よ」 「ナッキーはどうしてる?」 「元気にやってるみたいよ。もともと三ヶ月のホームステイの予定がひと月に変更になったんだけど、ゴネた父親が実刑判決になりそうだから、また三ヶ月に戻る感じ」 「そうなんだ」 「でも受け入れ先の都合もあるから急に戻せないでしょ。だから戻った二ヶ月はジェイクのところでステイするんだって」 「ジェイクって誰?」 「私のお見合い相手。無事、破談となりました」 「なにそれ」  葵は父親にお見合いばかりさせられている近況を皆に話す。 「夏生くんによると、ジェイクは写真が趣味で被写体として自分に興味があるみたいなんだって。だから女装した自分と観光案内がてら出かけて、そこで撮影するのが定番なんだそうよ。もちろん英会話と数学の勉強もしてるらしいわ」 「どっちがメインなのかわかんないわね。ということは、ナッキーは充実した毎日をおくってるのね」 「ええ。メンタルケアカウンセラーを一応紹介するつもりだったけど、大丈夫みたい。ハジメのおかげかな」  当のハジメは、手羽先の唐揚げをパクつきながら生ビールでそれを流し込む作業をせわしなく続けていた。それを見ながら千秋が呆れる。 「相変わらずよく食べるわねぇ。それでそのスタイルなんだから」 「いいでしょ別に。その分運動しているんだから」 「まだ少年課にいるの?」 「今日までね、明日からは元の広報課に戻るわ。なんかもうスケジュールがびっしり入ってるみたい」 「そりゃあんだけ話題になればね」  ハジメが夏生をかばって六人の暴漢を倒した件である。  あのとき配信されていた動画は拡散され、“ハジメちゃん最強”、“ハジメちゃん無双”、“格闘アイドル健在”、“おっぱいスゲー”、などなどリプライの嵐でバズりにバズり、お祭り状態となっていた。 「有名過ぎてどの課も扱い辛いから、結局いちばん有効活用できる広報課になったってお父様が言ってたわ」 ウーロン茶を飲みながら葵がそうつけ加えた。
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