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ワイワイ話しながら飲み食いして時間が過ぎていく。
「あ、あたしちょっとトイレ」
「私も」
ハジメと千秋が席を外すと、ケイは葵に話しかける。
「ハジメがいないうちに渡しておくわ」
ショルダーバッグから銀行の封筒を取り出し、葵の前に置く。
「何これ」
「今回の報酬。ナッキーからの依頼でアイデアを出したけど、実行したのは葵たちだからね。だからそれの報酬」
「別にいいのに……って、これいくら入ってるのよ」
「諭吉先生が百人」
「そんなにもらえないわよ、ていうか依頼人は私だから筋違いだってば」
「依頼人はナッキーよ。葵は橋渡し、紹介をしたの。それであたしは報酬を受け取った、アイデアを出して三人に実行してもらい結果を出した。だからただ働きさせたくないから受け取って」
「でも──」
「キャラバン、修理しないといけないんでしょ」
「う」
「それと、正直今回のことをあまり知られたくないのよね、だからこれには口止め料も入ってるの。お互いもう子供じゃないんだから対価と思って受け取って」
「──わかったわ。ありがたく頂戴します」
葵は封筒を手に取ると、自分のバッグにしまう。
「ということは、千秋にも渡したの」
「もちろん。もっともすぐに資産運用しといてって戻されたけどね」
「ハジメは?」
「あのコが受け取るわけないじゃん、だから渡さないし話さない。けどキープはしておくわ。いつか退職したときにさりげなく渡すつもり」
「いつかは渡すのね。オーケー、スッキリしたわ。今夜は個室がいいって言われた理由もね」
葵が笑顔でウーロン茶に口をつけようとしたところで、ハジメたちが戻ってくる。
「はー、スッキリした。さて、まだまだ飲むぞー」
「私も。生中と白ワイン追加してー」
上機嫌のハジメを見て、葵はあらためて乾杯しようと皆んなに言った。
※ ※ ※ ※ ※
お開きとなり、千秋とケイは電車で帰り、クルマで来ている葵を送るためハジメはついていく。
いくつか立体駐車場が並ぶところのひとつに入り、三階まで階段で上り端に停めてある葵のクルマまでくる。
「送ってくれてありがと。──まだタクヤは捕まってないの」
「うん、難しいかもしれない──」
ハジメはつきあげ捜査と事情聴取を思い出す。
黙秘をしていたリキヤが、ハジメになら話すというので取調べをすることになった。その時知ったのだがリキヤには戸籍が無かったのだ。
出産しても届け出を出さないと戸籍はできない。リキヤの母は貧困ゆえ自宅出産をして、そのまま届け出をしなかったらしい。
「タクヤさんにその話をしたら、オレと一緒だなって言われて──なんかそれが嬉しかった」
──どれだけ探しても見つからないのは、そのせいかもしれないと思ったところだった。
「よ、こんばんは。ハジメちゃんに葵センセー」
隣の立体駐車場から声をかけられる。二人がそちらを見ると、キャップを被った若いオトコがこちらに手を振っている──タクヤだった。
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