ハジメの予感

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 「タクヤ?!」  野球帽にスタジャンとジーンズ姿でにやにやしているタクヤに、ハジメは駆け寄り、葵はスマホを取り出す。 「ケーサツ呼んだら逃げるぜ葵センセー、スマホを離してくれ。今日はアイサツしに来ただけだからよ」  葵は躊躇したが、この状況では呼んでも逃げられるだけ、ならば情報を得るほうが得策と判断して言われたとおりスマホをポケットに戻した。 「さすが葵センセー、損得が分かってるねー」  どちらも三階にいる。さいわい裏手の細い路を挟んだ隣同士なので声を遮るものはなかった。  ハジメはなんとか渡れないかとキョロキョロしたが、さすがに無理だと諦める。 「さすがのハジメちゃんもここを飛び越えられないでしょ? あきらめて話そうぜ」 「あんた今まで何処にいたのよ、話って何? どういうつもりなのよ? 何考えてんのよ?」 「だから今から話すって」 「──ハジメ、代わって。私が話すわ」 葵も壁際によりハジメの隣にくる。 「タクヤくん、今まで何処にいたの」 「それはナイショ」 「じゃあ話ってなに?」 「しばらく名古屋を離れるんでね、ハジメちゃんにアイサツしとこうと思って。──鎧武は解散したよ、メンバーには連絡済だ」 「解散?」 「ケーサツとヤクザに喧嘩売っちゃったからね、しばらくおとなしくすることにした。だから葵センセーの護衛をしなくていいよハジメちゃん」  じつのところ鎧武の報復を心配していて、葵はなるべく一人きりにならないようにしていたし、ハジメも時間を作っては葵の側にいることにしていた。 「いきなりそう言われても信じられないわね。解散したからといって報復行動しないとは限らないでしょ」 「しないって。解散前に全員に言っといたよ、あの二人はオレのエモノだ、直接御礼をするから余計なことをするなってな」 「……結局安心できないわね。タクヤくんに狙われることに変わらないじゃない」 「しねぇよ。そうだな、手駒が戻るまでは動かないと約束してやるよ」 「……をする理由はなに?」 「──まあちょっとしたお返しだな。気に入らないけど、幸せそうだから許してやるよ」 「ん? 話が見えないわ」 「もういいだろ。言いたいことは済んだ、それじゃバイバイ」 タクヤはキャップを目深にかぶり直すと、壁際から離れて影に隠れてしまう。クルマの発進音がしてそれがどんどん小さくなっていく。 「あーもう、逃げられたー」  憤慨するハジメと、考え込む葵はしばらくそこに居たが、とりあえずハジメは少年課に報告し、葵はそれを待ってからハジメに質問する。 「ハジメ、捕まってる鎧武のメンバー──リキヤくんたちのこと教えてくれる」 「うん、でもー」 「タクヤの行動理由がわかるかもしれないから、そのための情報提供。これならいいでしょ」 「──うん、わかった」  ハジメはリキヤ達の話を葵に訊かれた分だけ話した。
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