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蝉は卵からかえると、自力で土の中に移動し、長い地中生活に入ります。それは数年、長いものでは、10年以上にも及びます。
そしてある年の夏、ようやく土から出て来ると、まだ飛べない蝉は安全な所を目指して進みます。
外敵に狙われながも、必死で進み続けます。全ては、その先で羽化する為に。
蝉の生涯は私達が知るよりずっと長く、羽を手にしたその夏は、想像より遥かに短く感じているのかもしれません。
蝉にとって、羽を手に入れる事は、空を飛び交う喜びか、終わりへ向かう哀しみか。
蝉が鳴くのは求愛行動、雄しか鳴きません。蝉時雨は雌にとって、どの様に聞こえているのでしょうか。
この夏も一匹の雌蝉が、蝉時雨が鳴り止まない森の中、息を潜めています。
土の中で危険に晒されながらも胸の高鳴りを感じて、その暗闇の向こうの世界に恋焦がれています。
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