ひぐらしのバラッド

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 そろそろでしょうか……。私は高鳴る胸の鼓動を抑えきれずに、何度も外の景色を伺いました。重い扉の向こうには、既に賑やかさが溢れ返っています。  私は少し出遅れたかもしれません。少しだけ日が短くなってきたように感じます。木漏れ日が差し込む森の中を颯爽と飛び交う私の仲間達。その誰もが知っています。  これは、私達に与えられた、一生に一度の短い夏である事を。  水色のキャンバスの上に、一瞬の線を描いては消えて行く姿は、私達に与えられた時間の短さを物語っています。  それでも私は思ってしまうのです。分かっていながら期待してしまうのです。  これから、私の一生で最も幸せな時間が訪れる事を……。 「あぁ、夜が待ち遠しい……」  私の中に、自然と溢れる感情は、母の記憶のせいでしょうか。それとも、蝉としての本能でしょうか。  賑わいの中、それを見つめる様に穏やかに流れる白い雲が、私の心を焦らします。  お母さん……。私は、卵の殻を破り、無事に今の住処へと辿り着きました。再びここから外の世界に踏み出そうとしています。  今日、やっとはじめました。私の最後の夏、お母さんの様に生きるための準備、はじめました。
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