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私は母以外から優しくされたことがありません。私はいつも、何者かに狙われていました。それは、住処の中でも同じ事でした。
初めて聞くその声は、母の優しさとはまた違う温かさを持っていました。そして、私が挫けそうになる度に、何度も私を奮い立たせてくれました。
『もう少しだ。慌てず、ゆっくり来るんだ』
どうして私は飛べないんだろう。お母さんは、私に羽を残してくれなかったのでしょうか。私は、何の為に……。
『心配するな。僕が全てを君に教えてあげるから』
本当にこの先に行けば良いのでしょうか。いっその事、また土の中へ……。
『迷わず、ここに来るんだ。さあ、こっちへおいで!』
その声は次第に大きくなっていくのを感じました。すぐ近くにいるのでしょうか。
私はその声に誘われるまま、引き寄せられるように進んで行きました。
『あと少しだ。頑張れ!』
その声が聞こえる度に、私の体に何かが溢れて来ます。今の私を支えているのは、きっとこの優しい彼の声……。
お母さん、貴方もこんな風に誰かの声を信じて、それに支えられていたのでしょうか。私、もうこの声無くしては進めません。
出来れば、この先もずっと聞いていたいと思うのは我儘でしょうか。
もう少しで彼の元に着きそうです。辛いはずなのに、終わって欲しくない。これが恋でしょうか。気持ちがバラバラになりそうです。
もう何も聞こえません。何も怖くありません。
私、こんな時に、恋をはじめてしまいました。私、思ってたのと違うけど……多分、はじめました。
カナカナカナカナ……。
「……ない。騙さ……るな」
何か声が聞こえます。何でしょうか。もう、彼は目の前にいる様です。
カナカナカナカナ……。
「違う!!そっちじゃない! 私の声を聞きなさい!」
大きな声に固まった私は目の前の景色に絶句しました。そこに居たのは無数の手を持つ、悪しき生き物。
大きな口を開けて私を待っていたのです。
途中から私を呼んでいたのは、この生き物の様です……。
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