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目を覚ますと、そこは昨日感じた寂しさを忘れるくらい、賑やかな森になっていました。
沢山の鳴き声に、私は胸を躍らせました。雄の鳴き声は私を呼んでいます。空を見れば、水色のキャンバス。白い雲がのんびりと流れています。
お母さん。私、はじめました。夏空を飛び回る準備、はじめました。
私は力一杯羽を震わせて、木から木へ、颯爽と飛び移りました。しかし、あの声は聞こえて来ません。昨日の、私と同じひぐらしの声です。
他の蝉達は、色恋立って、森の中を飛び回っています。
ふいに足元に目をやると、こちらを見たまま動かない仲間が居ました。私が慌てて近づくと、ブルブルと羽を震わせて苦しそうにしています。
「大丈夫ですか?」
「私の事はいいから、逃げろ……」
ガサガサガサガサ……。何者かの気配を感じました。
私は慌てて飛び立つと、上空からその蝉を見ていました。
私は上空から、その蝉が連れて行かれるのを見ていました。
私は木陰から、その蝉が捕食されていくのを……。
最後まで羽を震わせています。それは、必死の抵抗の様にも見えました。それは、最後まで諦めない意志の様にも見えました。
命の短さを知ります。消え行く命は、私に生きる事の難しさを伝えてくれました。
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