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王
「あまり取れませんでしたわね」
武装して天馬に騎乗した鸖公主が王に馬を寄せて話しかける。
天上から見下ろすと街がよく見える。
「街が荒れておるの。儂の治世も終わりか。これをみせたかったか、鸖よ」
王は平坦な口調で鸖公主に尋ねた。
公主は華やかに笑った。
「いいえ。せめての気散じになれば、と。父上を案じておりますのに。そのような不機嫌な顔をするものではありませぬ。おや、あそこに子を抱いた母がこちらをみております」
言うや鸖公主は天馬の腹を蹴り、若い母親のところへ降りていった。慌てて護衛の武将たちが続く。
王は近習たちを引き連れて最後にやってきた。
公主は天馬から降りて気さくに若い母親と話している。
「お父様、この者はかつてお父様の軍に加わっていたものの末だそうですわ」
紹介された女は、目の前の煌めく甲冑に身を包んだ男が王だと知って、慌てて子どもを抱いたまま叩頭した。
「面をあげよ」
若い母親はおそるおそる顔をあげた。誰かに似ている。よく笑う若い男だった。若い母親の期待を込めた眼差しが王を苛んだ。
「済まぬ。思い出せぬ。余の軍勢には数多の兵士がいる。到底思い出せぬ。失礼する。鸖公主、その母親と子に思いのままの褒美を取らせよ」
言い捨てて王はくるりと踵を返した。
「ではついておいで」
鸖公主は若い母親に命じた。
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