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その後、狩りを続けたがさして獲物はみつからなかった。 夕餉のために空き地をみつけて火を囲んだ。 「これは美味いな、食べたことも無い。いったい何の肉か」 突如王が尋ねた。そして椀をかき込むと給仕に椀を差し出した。周囲は驚きに包まれた。王は「鄒燕」と呼びかけた。 「これは何の肉か。ひと口噛めばさくと切れ中から旨みがしみ出てくる、尚噛み続ければ甘く淡雪のごとく溶ける。かように美味いものを余は未だ食したことがない」 そこまで言って、王は驚いたようにあたりを見回した。和やかに談笑していた公主と近臣たちが一斉に動きをとめて王をみつめる。 王は立ち上がると椀を鄒燕に突きつけ、語気激しく詰め寄った。 「鄒燕、これは何の肉か。申してみよ。余に申してみよ」 王の目は見開かれ、語尾は震えていた。鄒燕が王へ供する食材に悩んでいたことをここにいる全員が知っている。 鄒燕は王の前に跪くと叩頭し、顔をあげて莞爾と笑った。 「王よ。それはただの()にございます。このあたりで肉といえば蛙が最もたやすく手に入りますれば」 公主は満足気に頷いて父王を見やった。 「蛙か」 王はしばし何事か思案していたが、力なく首を横に振り、やがて頷いた。 「公主よ。謀ったな」 「恐れ入りましてございます」 公主は父王に笑いかけた。 「前王との戦のとき、一敗地にまみれた父上の軍は最早食料も尽きかけていた。やむを得ず皆で泥田に入り手分けして採った蛙を、この」 鸖公主は視線を鄒燕に移した。 「鄒燕が炒め煮にして食して凌いだと。その翌日、前王の城を落としたと随分昔に、そう一五〇年ほど前でしょうか。お父様から聞きましたわ。今日は吉例にならった食事をしたい、と妾が燕にねだりました」 公主は艶やかに笑った。 王は眉頭の間を揉むようにしながら呟いた。 「あの時、国は乱れに乱れ、田に作物はなかった。民のものを盗るわけにはいかぬ、そこで皆で泥田に入り蛙をとったのだった」 鸖公主は父王の唇が微かに綻んだのを見逃さなかった。
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