0人が本棚に入れています
本棚に追加
「何見てんだよ、ブス」
投げつけらた言葉に、ヒロは「わかってるって」と心の中で呟いた。
分かっている。ちゃんとブスだって、わかっている。
杉野博美こと、ヒロは世間一般に可愛い顔ではない。
色白だがにきびの目立つ顔に、目は豆のように小さく一重。鼻は低くて鼻先が上を向いていて子豚みたいだ。
背は低く、けれど体型は骨太のガタイの良い体型であることも加えてぽっちゃりしている。せめて髪だけでも女の子らしくと思って、腰近くまで届く長い黒髪を背におろしている。
それでもヒロは可愛くない。不細工だ。
言われなくても、14年この顔で生きているのだ。もうしっかり自覚している。
ヒロにブスと言った男子生徒は他の数人の友人たちと一緒に幅の狭い廊下で足を広げて座り込んでいた。
ゴミ捨てに向かおうと、ゴミ袋を腕にさげていたヒロは、足踏みそうだなあと思って見ていたのだが、その視線が気に入らなかったらしい。
このまま彼らのそばを通って廊下を抜けるのは難しそうだ。
面倒だが、一度校舎の外にでてぐるりと回ってゴミ捨て場に行ったほうがよさそうだ。
ヒロがその場から離れようとした、そのときだった。
「ちょっと!あんたたち!」
ヒロの背後から甲高い険のある声がした。
その声にあ、と思い振り返ると、案の定、伊藤愛梨がいた。
その場に現れた愛梨に、はっと男たちの空気が変わるのをヒロは感じた。
毎度のことだ。愛梨が目の前にくると、人は皆態度を変える。
愛梨、こと伊藤愛梨はヒロと小学校の頃からの友達だ。家も近所でもう一人の幼馴染の柏木智と3人でよく一緒に遊んだ。
今も3人は同じ学校に通っている。3人は現在中学3年生。愛梨と智は同じクラスで、ヒロだけが隣のクラスだ。
愛梨は昔から美人で可愛い。
色白で卵型の顔立ちで、目もぱっちりとした二重で大きい。しかもテレビに出てくるアイドルみたいに細くてスタイルもいい。
「あんたたち!そんなところにいるから、ヒロが困っているのよ!どいてよ!」
美人が怒ると迫力がある。気の強い愛梨に睨まれて、たむろしていた男たちは皆、気まずそうに、のろのろと立ち上がった。
「げ、伊藤だ」
「……向こう行こうぜ」
ヒロにブスと言った男子生徒が嫌そうに愛梨から顔を背けている。愛梨は美人で人気があるが、一方でその気の強さを苦手に思う男子もいる。
最初のコメントを投稿しよう!