キレイになる理由

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 けれど、彼らの一人が「やっぱ、可愛い」と小さく言うのをヒロは聞き逃さなかった。  どんなに気が強かろうと、やはり可愛いは無敵だ。 「……ほんっと、邪魔なんだから」  ぞろぞろと向こうへ行った男子たちを睨みながら愛梨がため息まじりに言った。 「ヒロも、黙ってないでちゃんと言いなさいよ」 「……うん」  一応返事をしたが、そんなの無理だとヒロは心の中で思った。  愛梨は可愛いからそんなこと言えるのだ。ヒロみたいなブスは絶対に言えない。  愛梨はヒロがゴミ袋を持っているのを見て、あきれた表情を浮かべた。 「ねえ。ヒロ。前もゴミ捨て行ってなかった?」 「ああ。うん。皆忙しいみたいだから」  掃除当番の他の子は皆部活で忙しい。ヒロは一人だけ帰宅部だから、いつもゴミ捨ては引き受けている。 「……だからって毎回ヒロが行くことないでしょ!」  なぜ愛梨が怒るのだろう。ゴミ捨てぐらいどうということはない。  きょとんとするヒロに、愛梨は大きくため息をついた。 「ヒロはさあ、昔っから人が良すぎるのよ。まあそれがヒロのいいところでもあるんだろうけど。もうちょっとさあ、自分を通してもよくない?」 「自分?」 「たとえばさ、もっと自分がこうしたいとか。自分の望みを出してもいいと思うのよ」 「……」  望みか……と、ヒロは考えながら、じっと目の前の愛梨を見つめた。  ひとつだけ、望みがあるとすれば。それは……。 「愛梨みたいに、キレイだったらな」  思わず思ったことが口に出てしまった。はっとしたがもう遅い。  愛梨はきょとんと元々大きな目をより大きく見開いて、ヒロを見ていた。 「え?」 「あはは。ごめん。忘れて!」  ブスのヒロが何を言っているのだと思われただろう。  慌ててヒロは笑ってごまかそうとした。 「……ヒロ、キレイになりたい?」  しかし愛梨は大真面目な顔をしてぐいっと顔を近づけてきた。 「えっ?」 「キレイになりたい?キレイになる方法、知りたい?」  愛梨は妙に目をキラキラさせている。何だろう。  ヒロは思わずのけぞりながら、愛梨を見てクビを傾げた。 「キレイになる方法?そんなの、あるの?」 「あるよ!」  愛梨は断言すると、ぱっとヒロから顔を離し、右腕をまっすぐ上に伸ばし、天を指さした。 「美は一日にしてならず!」  なんだ。その格言は。  急に宣言した愛梨は天を指さしたその手をまっすぐにヒロに向けた。 「ヒロ!キレイになろう!」  そう言って愛梨はアイドル顔負けの、花が咲いたような満開の笑顔を見せた。
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