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 ジリジリと夏の日が肌を焼いている。オフィスを出るときに日焼け止めを塗っていたけれど多分効果はないだろう。高校時代、ソフトボール部でついた日焼けは大学の間になんとか治まったのにまたかと思う。一度日焼けを覚えた肌は、太陽の熱をすぐに吸収する。上着を脱がない方がいいとは思うけれどこの暑さ、どうしても帰りは持って帰ることになる。  このスーツもクリーニングに出さなければいけない。だから今夜は焼肉や焼き鳥に誘われてもOKだなと思いながら、社への道を急いだ。  いつもは付き合いの悪い私が、今日はOKと言ったから同期会が行われることになっている。久しぶりに二次会まで行こうかなと思いながら、心持ち急ぎ足で帰った。  今日はちょっと遅くなっても大丈夫。佐野主任は今日は実家の用で休みを取っているのだから。  彼は私が退社すると40分後に電話をかけてくる。束縛されているようで嬉しかった。 「帰った?今日もおつかれ」  会えない日のそんな言葉だけでもときめいたし、オフィスで聞くのとは違う甘い声に癒された。  『明日の夜は電話できないと思う』昨日の電話でそう言われていた。久しぶりのご両親との時間なんだから。  そんなことを考えるうちにエレベーターがやってくる。何人かが下りたあと乗り込んだ。  18階でエレベーターを降りる。この階の全フロアを借り切っている我が社の一番奥のドアを入ったところに、私たちの部署のオフィスがある。 「ただいま戻りました」  そう言いながらドアを開けて、自分のデスクに向かう途中で、同期の武下くんが近づいてきた。心なしかオフィスの中に人が多いし、なんとなくバタバタしている。 「どうしたの? 今日のこと?」  同期会の話かと思って聞いたとき、武下くんはブンと大きく首を振った。 「それどころじゃない。今日は中止。佐野主任が亡くなった」 「なに? そのジョーク」 「冗談じゃない。こんなこと冗談で言えるか! さっき警察から電話があった。事故だ」  耳を疑いながらも武下くんの真剣な顔に体中の力が抜ける。その場にしゃがみこみそうになったとき、 「奥さんと車で旅行中に事故に巻き込まれたらしい」  ……奥さんと旅行……  崩れかけた私は、その一言で自分の足で立っていることができたのかもしれない。
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