酸いも、甘いも、君次第(2)

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酸いも、甘いも、君次第(2)

本編23話位の時間軸のお話です。 未読の方は、ネタバレにご注意ください。 *** 「……っぁ……ん……」  バスローブの隙間から差し込まれた手が、既に尖り始めた胸の飾りを指の腹で潰し捏ねる。  顔を上気させて熱い吐息を漏らす唇は、何度も激しく貪られて、意味ある言葉が出てこない。  セナの体は、手慣れた愛撫にあっという間に燃え上がった。 「や……ッ」  しかし、窓から差し込んだ冷たい閃光と、少し遅れて届いた爆音が、その行為に水を差す。  思わず自分を組み敷く男の首に腕を回してしがみつき、セナは体を密着させた。  僅かな隙間さえ許さないその抱擁は、欲を帯びたものではなく、ただ純粋なる恐怖からくるものだ。 「大丈夫だ。俺はここにいる」  魔王はそれを敢えて離す事はせず、あやすように頭を撫でて優しい口付けを落とす。  そして、密着した体制のまま、セナの後腔へと指先を伸ばした。 「柔らかい」  閉じた蕾は軽く突くだけで、弛緩して指を受け入れようとする。  まだ解れたままの内部は、柔らかくも熱く蕩けてあっさりと二本の指を飲み込み、ゆったりと締め付けて男を煽る。  だが、突然襲う雷鳴に、細い体が再び緊張した。  当然、襞も収縮し、銜えた指を締め付ける。 「……ッ、凄いな。予想以上だ」  何を予想していたのか。  セナの思考の端に文句が浮かんだが、それ以上に狭い内部で動く銜えた指の容赦ない刺激が脳髄を直撃し、息を呑む。  主張を始めた前部にも淫猥な男の手が伸びてきて、弄られるとすぐに透明な滴を滲ませ歓喜した。 「……ん、ぁ……ふ……ゃ……まお、う……もぅ……っ」  雷の恐怖もそこそこに、快楽に溺れて先を求めるセナに、魔王は嗤って訂正を求める。 「違うだろ? いい加減、覚えろ」  大切な人の名を。  覚えたばかりの、大切な……二人だけが知る名を。  その意味に気付くだけで体の熱が上がり、要望は渇望に変わる。  一つになって、青年を……泣きたくなるほど甘く苦しい幸福を、全身で感じたい。  快楽の海の中、酸素を求めるように、セナは濡れた瞳で縋るように強請った。 「……セナドール……はや、く……いれて、ほし……ぃッ……」 「随分と卑猥な救世主だな」 「せな、どーる……!!」  焦らすように嗤う青年の名を、セナは詰るように呼ぶ。  そんな愛しい救世主に甘い笑みを見せながら、セナドールは体勢を変え、ベッドのヘッドボードに背を預けて座った。  そして、細く熱を帯びた体を、向かい合うように膝の上に乗せて座らせると、劣情に彩られた赤い瞳を覗き込む。 「自分で入れてみろ」 「……そ、んな……」  意地悪な瞳は、戸惑い揺れる瞳を逃さず、真っ直ぐに見つめてくる。  下半身に当たる剥き出しの欲望は、どちらも熱を孕んで硬くそそり立ち、続きを切望していて。 「……ほら、早くしないと、いつまでもこのままだぞ?」 「……ッ、……」  楽しげな青年の顔を一睨みして、セナは本能の求めるままに、受け入れ慣れた欲望を掴んで己の入り口に宛がった。  恐怖からか、体を沈める動きは酷くゆっくりだ。  それ故に、内部が広がり深く侵食されていくのをしっかりと感じ、背筋が震えていつも以上に締め付けてしまう。 「……ふ、……」  最中にチラリと相手の顔を見れば、眉を寄せて快感に堪えていることが窺える。  精悍な色気を放つその表情は、間違いなく自分が与えているものだ。  そう思うとセナの胸の中に優越感にも似た喜びが溢れ、さらに体が熱くなった。 「ちゃんと入ったな」  良く出来た。  根元まで銜え込むと、幼子を褒めるような優しい瞳で言われて、羞恥よりも純粋な喜びに顔が綻ぶ。  そうすれば、目の前の青年も嬉しそうに笑うから、幸福な笑顔の連鎖がいつまでも止まらない。  胸が痛いほど。  泣きたくなるほど。  嬉しくて、優しい幸福が。 「……ふ、ぅ、……んぁッ……んっ!」  湧き上がる衝動のままに深い口付けを交わす中、くん、と下から突き上げられ、セナの笑みが淫靡な悦びに変わる。  甘い嬌声は暗い部屋に響き、結合した部分から起こる水音と共に、欲に浮かされる二人の耳を淫らに犯した。  このまま、快楽に溺れてしまう……そう思った刹那。 「……ひっ……、や……ッ!!」  閃光とともに響く、地を揺るがすほどの轟音。  忘れ去られていた雷が窓ガラスを揺らして存在を主張し、室内にいる二人に襲い掛かる。  心身ともに無防備な状態のセナは、平静を保てず身を強張らせて、己を抱く男にしがみついた。 「……ッく……」  内部が、銜えたままの男を締め上げ、セナドールは呻き声を漏らしながらも衝撃をやり過ごす。  食いちぎられそうな痛みと本能的な恐怖が伴うそれは、同時に目が眩むほどの快楽を彼に齎した。  だが、快楽を感じたのは締め上げられた側だけではなく。 「……ッぁ……ひぅ……」  締め上げた側も、中にいる力強い存在をしっかりと感じ、背筋を震わせ仰け反った。  密着した二人の間に、白い蜜が散る。 「……ふ、ぁ……ぅ……」 「置いていくなよ」  放心しながら微かな痙攣を繰り返す華奢な体に笑い、セナドールは熱い吐息を目の前の耳に吹き込んだ。  その呼気の熱さに未だ芯に燻る劣情を煽られながらも、セナは戸惑いと罪悪感に今にも泣きそうな顔を見せる。 「……すまな……ぁ、ひッ!」  謝罪の言葉を皆まで言わせず、セナドールは体を弾ませた。  受け入れたままの楔に中を擦られ、達したばかりの体は敏感に反応する。 「謝らなくていい」  欲しいのは、謝罪でも、後悔に歪む顔でもない。  息を呑んで背筋を震わせる愛しい青年に、セナドールは口端を上げる。  少し暗い物を感じさせるそれは、無意識にセナの視線を釘付けにする。  酷くされるかもしれないという不安と……期待。 「その分、楽しませろ」 「……ひぃ、ぁ!」  追い上げるような激しい突き上げに、上に乗るセナの体が大きく上下する。  体重が掛かって、いつもより深く飲み込む内部は、強い刺激に収斂を繰り返した。  背中に回した細い手に力がこもり、逞しい背に赤い爪痕が残る。  痛みを感じているのだろうが、セナドールは動きを止めることなく、緩急をつけて華奢な体を蹂躙し続ける。  セナの豊かな銀髪が波打つように揺れて、部屋の中の僅かな光を反射して煌いた。 「ぁ、ふっ……せな、どーる……ぅ、あぁッ、んッ」  声を出せば甘やかな悲鳴に変わり、かといって、口を閉じることも出来ず。  セナは、促されるままに卑猥な嬌声を上げ続けるしかない。  男として恥ずかしいことなのだろうとは思うが、それを堪える術などなかった。 「……、やぁぁッ!!!」  再び閃光と共に部屋に飛び込んだ轟音に、セナは悲鳴と共に体を強張らせる。  今度は、セナドールも我慢などしない。 「……ッ、くぅ…」  深く深く、繋がる。  それでも届かない最奥へと侵略しようとするかのように、熱い滴が中に放たれる。  互いの呼気を、熱を、鼓動を、存在を、幸福を噛み締めるように、腕の中から零れてしまわないように。  二人は、余韻に震える互いの体を抑え込むように力を込めて抱きあい、無言で深い口付けを交わした。
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