第一章

8/18

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
 「そろそろ起きてください、織姫様」  「んー…もうちょっとー…」  相変わらず寝起きの悪い主人はむにゃむにゃと夢の中にいる。  昨晩、あれからソファで寝ていた主人を寝室のベッドまで運んだ。  腕に掛かる無防備な重み、手から伝わる人の温もり。  猫の姿では決して感じられなかった感触。  主人を俺は初めて抱きかかえた。  ベッドに下ろした瞬間、ふわりと甘く香ったのは、シーツからだったのか、それとも…。  シーツの上に広がる長い髪の流れをじっと見る。うねる度艶やかにきらめいて、まるでそれは天の川のようだった。  昨日はとても触れられもしなかったけれど…。  俺はそっと指でそれをすくう。更々と指の隙間から流れてしまうのが堪らなくて、ギュッと力を籠める。  ああ、これが人の欲望というものなのか。身体の奥から湧き出る熱い何かが一気に全身を駆け巡っている。  「ふがっ…!んー…?」  主人の髪に口づけをした瞬間、パチッと当の本人と目が合った。  「やっと起きましたか?織姫様。おはようございます」  それはそれはスマートに微笑み、髪の毛に口づけたことは無かったかのように振る舞う。  「嘘……バ、ハル…?」
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加